猫可愛がり


 やたらと眠い。
 まるで雲に包まれているかのような感触を伝えるふかふかの寝床で眼を覚ました宗矩は、そこがどこなのかまるでわからず、寝ぼけ眼でぼんやりと周囲を見回した。ほぼうつ伏せになって四肢を縮めた窮屈そうな寝姿の割に疲れは感じず、それどころか、この温かい寝床と先程までの眠りが名残惜しくて、まだ眠っていたかったのにと不機嫌に眼をこすり、大きく欠伸をする。
 途端、ちりりん…という可愛らしい音が耳に届いた。
 「み…っ、みぃ・・・・」嫌な予感に一気に眼が覚めた宗矩は、頬をすり寄せていた柔らかな布団を突き飛ばすように上半身を起こし、自分の口から洩れた声に愕然とした。まさか、まさか…という混乱が胸の内に広がり、おずおずと喉元を探る手が情けないほど派手に震える。
 ―――― 首には別珍独特の手触りを持つ布が巻かれ、小さな丸い鈴が揺れていた。
 「お目覚めですか、仔猫ちゃん」
 呆けたようにベッドに座り込んでいた宗矩の頭を、大きな手が優しく掻いた。意気消沈して寝そべり掛けていた耳が緊張を孕んでぴんと立ち上がり、力なくシーツの上に投げ出されていた艶やかな尾が鞭のように撓る。常の冷笑的な鋭さを失い、代わって仔猫特有の健気な警戒心を備えた色違いの瞳が、声の主をはったと睨み据えた。
 「おや? 御機嫌斜めですね? まだ眠かったですか?」しかし睨まれた方はと言えば、まるで動じる様子なく、怒りに震える耳を寝かしつけるように漆黒の髪を撫で、余裕綽々に微笑んでのける。「まあ、仔猫は眠るのが仕事ですから構いませんが。しかし、そろそろお腹が空いたのではないですか?」
 「フーッ!」激怒してフォーティンブラスに掴み掛かった宗矩は、あっという間に白い腕の中に抱き込まれ、怒りに怒って身を捩った。しかし、こちらがいくら怒ってもフォーティンブラスに怯む様子はなく、挙げ句、“よしよし”などと、愚かしい老女が仔猫を宥めるような仕草で撫で回されて、余計に腹が立つ羽目になる。「ふぎゃあぁっ! シャアッ! フーッ!!」
 「おやおや、やんちゃな仔ですね」柳眉を吊り上げるばかりか、愛らしい三角耳を覆った柔毛まで逆立てて威嚇する宗矩を微笑ましげに眺め、フォーティンブラスが楽しげに言う。「怒らない怒らない・・・・何も怖いことはしませんから。ほら、これで御機嫌を直してくれませんか?」
 かんかんになっていた宗矩は、不意に鼻先に差し出された小さな白い小花に不意を衝かれ、驚いたように後退った。梅の花によく似た、しかし梅ではない白い花房は、不規則な白い斑を浮かべた葉に包まれ、白い花弁を慎ましく震わせている。
 「み、ぃ・・・・?」葉先を白く染める梅に似た花 ―― 別名“夏梅”と呼ばれているほど良く似た花 ―― に思い当たってはっとした時には既に遅く、くらりと視界が揺れた。奇妙な、香りと言うにはあまりに仄かな、だが堪らなく魅惑的な気配が身体を包み、怒りにささくれ立った意識を生温く宥める。「ミ、イィ・・・・」
 「ふふ…よしよし、気に入りましたね」不審、好奇、そしてその正体を知った後の驚愕と狼狽…それらが忙しく入れ替わった後、何とも扇情的な表情で潤んだ紅い瞳を覗き込み、フォーティンブラスが楽しげにささやく。「ほら、これは差し上げましょう」
 「ふみ…っ、ィ、イ・・・・」くたくたと崩れてしまった身体を甘やかすように抱き締められ、力の入らない手にまだ柔らかささえ残した若木の小枝を握らされて、宗矩は抗いようのない衝動に口惜しげに瞳を揺らめかせた。駄目だとわかっているのに、手にした小枝をどうしても捨てられない。こんなものを近くに置いていたのでは、今の身体では致命的なことになるとわかっているのに。「みぃ…っ、みぃ・・・・」
 「困りましたね、これは・・・・」哀しげな鳴き声に水色の瞳が驚いたように見開かれ、次いで、苦笑に眇められた。「恋敵の気持ちなど理解するのは腹立たしいことこの上ないのですが・・・・これほど愛らしい仔猫を前に、理性を保てるはずがないという点では、残念なことに貴方の想い人に同感です」
 ふらふらになっている宗矩の視界を淡い金髪が掠め、薄く笑んだ唇が手にした小枝から白く斑の浮いた葉を一枚、摘み取った。何をされるのかと怯える宗矩の唇がくちづけに塞がれ、新緑の香りを含んだ舌を深く咥えさせられる。
 「ふ…っ、み、みいぃ…っ」今の宗矩にとっては媚薬の塊としか言い様のない葉を咬んだくちづけに、しなやかな尾が助けを求めるように撓り、白いシーツを打った。ちりん、という緊迫した音が響き、次いで、その狼狽ぶりを示すようにちりちりという震えた音に変わる。「う、う…ミャ、ァ…!」
 香りだけでも精一杯のところに、樹液まで含まされたのでは堪ったものではない。宗矩は激しく火照り始めた身体を持て余し、如何にもつらそうに身を揉んだ。媚びる心算など毛頭ないのに、母猫のように優しげな仕草で肌を舐められると、どう頑張っても、ごろごろと甘ったれた声で喉を鳴らしてしまう。いけないと、いくら自分を戒めても追いつかない。
 「み、ゥ・・・・」上気した顔が甘く蕩けそうになるまでくちづけを注がれた挙げ句、必死に呼吸を貪る唇をちろりと舐められ、宗矩は、もう勘弁してくれと言わんばかりの表情でフォーティンブラスを見上げた。「みいィ…」
 「おや、おねだりですか?」内心では腸が煮え繰り返っているであろうが、罵倒しようにも猫の鳴き声しか出せない宗矩の必死の訴えに、フォーティンブラスが白々しく考え込む。「嗚呼、やはりお腹が空きましたか? では、ミルクをあげましょう」
 「み…ミィッ!」生まれたての仔猫そのものに頼りなく震える身体を寝台に下ろされたかと思うと、触れる前からその熱さを感じ取ることが出来るほど張り詰めた怒張を目の前に突きつけられ、宗矩は本気で悲鳴を上げた。だが、ふわふわと毛羽立てた繊維で織られたシーツに思わず力の入った指先の爪が引っ掛かり、そんな些細な枷さえ外せないほど不器用な動きしか出来なくなっている指のために、その場に釘付けにされてしまう。「ふにいぃっ! みぃっ、みいィッ!」
 「本当にやんちゃな仔ですね、貴方は」引っ掛かった爪を振り回したおかげで尚更シーツに絡まり、じたばたともがいている宗矩の様子に、フォーティンブラスが実に嬉しげに眼を細める。「ほら、はしゃぐのはそのくらいにして、ミルクをお飲みなさい。ご飯が済んだらちゃんと外してあげます」
 「ミイィ…!」それでも奉仕を拒んで身を捩ると、フォーティンブラスは仕方なさそうに ―― だが依然としてひどく楽しそうに ―― ため息をつき、否定の形に振り回されている黒髪をそっと押さえた。途端、両手からがくりと力が抜け、絡まったシーツごと寝台に沈み込むように身体がうつ伏せてしまう。「ふみぃっ! んみぃっ!」
 「静かに・・・・」
 熱いささやきが震える尾を撫でたかと思うと、最も敏感な尾の付け根を甘咬みされて、宗矩は碌に声も出せない有様で仰け反った。のた打つことも出来ずに引き攣る尾をやわやわと咬まれては舐め上げられ、快感と言うにも激し過ぎる衝撃に意識が引き千切られそうになる。挙げ句の果てには淡く柔毛に覆われた秘所まで丁寧に舐り捏ねられ、宗矩は、身体の芯を炙り蕩かすような執拗な快感に半ば失神状態で喘ぎ続けた。
 「そう・・・・そうやっておとなしくしていなさい。仔猫というものは、飼い主に愛されるためにこそ生まれて来るものなのですから。その仔猫が愛されることを拒むなど、とんでもないことですよ?」
 そうささやかれたかと思うと、丁寧な愛撫を全身に広げられて、宗矩は抗いようのない快楽の中で哀しげに身を捩った。嫌だと叫びたいのに、牙を剥こうと口を開けば、零れるのは甘ったれた鳴き声ばかりで、情けないことこの上ない。威嚇に逆立った背筋の毛並みを巧みで執拗な指先と唇に撫でつけられ、ただ、与えられる愛撫への期待と怯えに無力に震えるばかりにされてしまった宗矩は、必死の想いで口を開け、顔の近くに置かれたフォーティンブラスの手に牙を立てた。
 「こらこら・・・・本当にやんちゃな仔ですね」快楽に喘ぎながらの“口撃”に大した力は篭っていなかったが、糸切り歯が猫のそれに変わっているだけに、普通に咬まれるのとは基礎攻撃力が桁違いだ。フォーティンブラスはくっきりと牙の痕がついた指を楽しげに眺め、ひくりひくりと震える耳を柔らかく食むようにささやいた。「少し厳しい躾も必要ですか?」
 「…!? み、ぎゃ…っ、アァッ!」とろとろにされてしまった秘所に押し込まれた何とも形容し難い異物感と、散々舐り責められて痙攣する尾を襲った強烈な圧迫感に、宗矩は眦が裂けそうなほど大きく眼を見開き、しなやかさを増した背を折れんばかりに反らせた。「ミイイイィッ!!」
 「オイタが過ぎるからですよ」強烈な快感に全身を突っ張らせ、呼吸も満足には出来ない様子で痙攣する宗矩を惚れ惚れと眺め、フォーティンブラスが諭す。
 「みゃあ…っ、みゃ、ぁ…!」必死に振り向いた視界に写ったのは、何やら不自然な形で弧を描いて痙攣する尻尾の中ほどだった。飾り布を結ばれた尾の先は見えず、持ち上げようとしても、びくともしない。それも道理だった。柔らかなうねりの中に飲まれて痙攣する尾の先は、柔毛に包まれてぴくぴくと震える尾を捻じ込まれて引き攣った秘所にしっかりと食い締められている。その痛いほどの食い締めに尾の痙攣が強まって、本来は柔らかなはずの毛を逆立ててしまい、柔毛に包まれた異物がのた打つために慣れぬ刺激に晒される内襞は、一層死に物狂いで侵入者の狼藉を阻もうとする。どうしようもない悪循環だ。「ふ、みぃ…っ、みぃ…っ」
 「さ…ミルクですよ」余程つらいのか、眼に一杯に涙を溜めている宗矩に、フォーティンブラスは何事もなかったかのように告げた。口惜しげに、だが、どうしようもないほど妖艶な仕草で眼を伏せた宗矩が、差し出された熱に諦めたように舌を絡める。明らかに人のそれとは異なる、ざらりとした舌の感触が最も敏感な部分に触れ、鉱物めいて動きの少ない白面がさすがに動揺した。
 姿形を変えられた弊害なのか、やたらと緩くなった涙腺を忌々しく思いつつも、今の宗矩には哀しげに呼吸を啜りながらフォーティンブラスに奉仕する以外に術がなかった。自分で自分を犯しているとも言える現状が口惜しくてつらくて、その倒錯した快感が忌まわしくて、兎にも角にも、何とかして逃れたくて堪らない。だが、肘から先にも膝から先にも碌に力が入らず、己の秘所に突き立てられた尾を抜き取ることさえ出来ない有様だ。
 「そう・・・・やっと良い仔になりましたね・・・・」
 吐息のような言葉と共に柔毛に覆われた耳を撫でられて、首を振ることも出来ない宗矩は必死になって耳を寝かせ、背筋をざわめかせる愛撫から逃れようとした。だが、逃げようとすればするほど、そこが弱点であると気づいた指は執拗さを増し、薄い皮膚が燃え上がるように熱くなる。
 「みー…ミイィ・・・・」
 「わかりました。やめます」潤んだ瞳に哀しげに見上げられ、フォーティンブラスは柄にもなく慌てた様子で言った。常よりも柔らかな印象になった黒髪に手を置くだけにすると、健気な涙を一杯に湛えた瞳は諦め半分に俯き、今の衝撃で撓りを増したものが再度、温かな口内に包み込まれる。「やれやれ・・・・」
 いくら何でも、あんな顔をするのは反則だろうと心底思う。日頃は可愛げとか素直さとかいうものにまるで無縁といった有様でいるくせに、あんな・・・・幼子のように無垢な表情を突然露わにするのは。
 「やはりお仕置きが必要ですね・・・・」
 「みぅ…っ、ふぎゃ…ぁ・・・・!」もう少しの我慢、あと一度、大きな屈辱に耐え忍べば、それで解放されると言ったところで急に取り上げられた熱から迸り出た白濁を顔中にぶちまけられ、宗矩は怒りと屈辱に全身を張り詰めさせて絶叫した。「ふぎゃあああっ!」
 「おっと…これは失礼」当然わざとやったことであろうが、おっとりと詫びるフォーティンブラスには悪気の欠片も感じられない。汚された顔をシーツにこすりつけ、怒り心頭の声を上げ続ける宗矩を見詰める視線も相変わらず慈愛に満ちたもので、抗う術もなく痴態を晒し続けねばならない想い人を捕らえたことで、前代未聞の御機嫌ぶりであることが窺える。「生まれたての仔猫を見たことはありますか? まだ眼も碌に開かないような仔猫は、自分では何も出来ないものでしてね・・・・そう、例えば排泄などという当たり前のことにさえ、親猫の助けが必要なのですよ」
 「ミィッ!」現在の身体においては最も敏感なふたつの器官が重なり合った場所に舌を這わされ、宗矩は鋭い声を上げて懸命に身を捩った。
 「だから、日に何度か、こうして刺激を与えてやらなければ、仔猫はとても苦しい思いをすることになります」
 「みぃっ、みぃ…っ」堪らず力の入った下腹に押され、しっかりと食い締められていた尾がずるりと動いた。痙攣する秘所を舐られ、くすぐられ、じりじりと、恥ずかしい限りの動きで、同じく快楽に痙攣する尾が外へ外へと送られて行く。「ふみ…ッ、ィ…ッ」
 視線が刺さる。自分でも具に見たことなどない行為と同じことをしている秘所に、何ひとつ見逃してくれそうにない粘りつくような視線が。まさか自分がこんな辱めを受ける日が来ようとは思ってもみなかった宗矩は、緩やかだが逆らい難い衝撃に促され、羞恥と屈辱にふらふらになりながらも下腹部の力を抜くことが出来なかった。恥ずかしさのあまり、にゃあにゃあと哀しげな鳴き声が間断なく零れ落ちるが、それを自覚する余裕さえない。やがて宗矩は、異物を吐き出す秘所の痙攣をフォーティンブラスの眼に余さず披露しながら、なかなかにして深く含まされていた尾を自力で身体の外に追い出してしまった。
 「・・・・よく出来ました」やっとのことで尊厳の欠片も守られない辱めから逃れ、投げ遣りな様子でぐったりと横たわる宗矩の頭を撫でてやり、フォーティンブラスが上機嫌で宣う。「では、御褒美をあげましょう・・・・貴方の大好きなこれを、こちらからも味わわせて差し上げますよ」
 「みぅ・・・・ふ、みィ…!? ミィ ―――― ッ!」軽く揉み潰した斑の葉を内襞の間に含まされ、宗矩はそれこそ声を限りに絶叫した。体内に焔を投げ込まれたかのような衝撃に続いて、急激な酩酊感に頭がふらつき、意識が遠退く。「みぃ…み、みゃあァ…!!」
 「素敵でしょう」フォーティンブラスは、依然としてシーツに手足を絡め取られたままの宗矩の中にもう一枚、揉み潰した葉を押し込み、震え上がる内襞を樹液を絡めた指で執拗に掻き立てた。やがて痛々しい悲鳴は甘く弱々しい鳴き声に、全身を揺さ振る痙攣は艶かしい快楽の慄きに変わり、吊り上がった眦も甘やかな泣き顔に蕩けて行く。「仔猫にこの葉を漬け込んだミルクを与えて育てると、やがてその仔は薬草入りのミルクを与えてくれる人の手からしか食べ物を受け取らなくなる・・・・貴方にもそれが通用するかどうか、試してみましょうか」
 掠れた声でみぃみぃと窮状を訴える宗矩をシーツから解放してやったフォーティンブラスは、もう抗う力などまるで残っていないであろう身体を膝の上に抱き上げ、一息に貫いた。夜露に触れた蕾が震えるように、きゅう…と甘く締まった秘所を徐々に激しく突き上げながら、揺らめく尾を腕に絡めるように捕らえて撫でさする。
 「にゃあ…! みぃ、ぃ…!」
 「すぐに済みますよ」
 「みゃうぅ…ミィ・・・・ッ、ふみィッ!」
 「はいはい」
 罵倒なのか哀願なのか不明だが、人の言葉を取り上げられた宗矩の無力極まりない抵抗の愛らしさに、フォーティンブラスは大いに気を良くして、哀れっぽい鳴き声にいちいち返事をしてやった。突き上げる度、心細げに揺れる耳が柔らかく光を弾き、喉元で揺れる鈴がか細く鳴って、哀れな仔猫の妖艶さを堪らないほど引き立てる。虐めつけて泣かせるか、それとも、散々に甘やかして羞恥責めにしてみようかという実に贅沢な悩みを弄びつつ、フォーティンブラスは、色違いの瞳の奥に微かに残された理性を粉砕すべく、宗矩を絶頂へと追い立てた。
 「この姿になっても、やはり耳元が弱いのですね」可愛らしく震える三角耳を摘み上げてやると、途端に激しく身震いする身体を宥めるように抱き締めてやり、フォーティンブラスがつぶやく。嫌々と、常日頃の可愛げのなさを詫びて余りあるほど健気な仕草で首を振る宗矩の有様は可哀想なほど無残で、それでいて、心が蕩けそうなほど愛らしい。「ふふ…では、ここはどうですか?」
 「にゃあ…!」ぐいと抱き寄せられたかと思うと、胸元で硬く緊張し切っている突起をちゅ、と音を立てて吸われ、宗矩は悲痛な表情で首を振った。熱い脈動に一杯に押し広げられている内襞が怖いほどきつく締まり、痺れるような快感がじんわりと骨身に染み渡る。「ふみ、ィ…ッ」
 「沢山遊んでお腹が空いたでしょう・・・・今度こそ、ちゃんとミルクを飲ませてあげますからね」
 「み、みぃ…っ、みゃ、う、ぅ…!」緩々とした、こちらの情感を煽り立てるばかりを目的としていた抽挿が突然、重々しく最奥を抉り返す動きに変わり、宗矩は力の入らない手足を振り回して必死になって抗った。内襞に直接仕込まれた媚薬のために最早嫌悪感など残ってはいないが、理性を奪われたがために歯止めの掛からなくなった快楽が怖い。だが、怖がっているのは意識の方だけで、肉体は、力強い愛撫に既に箍を吹き飛ばされ、絶頂へと直走るばかりだ。朦朧とし始めた意識でさえ、激しい鼓動に疼く淫槍を咥え込んだ秘所が、まるで母親の乳房に縋る赤子のような必死さで抽挿される快楽の源にしゃぶりついているのがわかる。
 やがて、馴染み深い衝撃が最奥で弾け、蕩け切った内襞を痛みと快楽が複雑に絡み合った痙攣が襲う。次いで、何とも形容し難い甘い痺れが腹の奥から広がり、身体ばかりか意識をも飲み込み、粉々に打ち砕いた。
 「にゃあっ! うぅ…っ、みゃあうぅっ!」ひくひくとのた打つ尾の付け根を器用な指先に捏ねられて、宗矩は未知の領域と表現しても良いほどの快楽に意識を吹き飛ばされ、憎たらしい限りの創造神の腕の中で絶頂の痙攣に身を任せた。飛ぶ…と思った瞬間、ぴんと張り詰めた尾を付け根から先端へと一気にしごかれ、堪らない衝撃が背筋で弾ける。「ふぇ…っ、ん、ミイィッ!」
 たっぷりと吐精を受け止めた最奥にトドメの抽挿を与えてやりながら、フォーティンブラスは何とも甘やかな表情で快楽の頂点を極める宗矩の様子に惚れ惚れと見入った。恐らく今、この瞬間でさえ、宗矩の心には彼の姿はないだろう。だが、その代わり、蒼鬼の姿も想ってはいまい。本来は他の男のものであり、決して我が物にはならない愛しい人が、この一瞬だけは誰の物でもなくなる ―――― このまま我が腕の中に捕らえてしまうことさえ出来そうに思える。これほど甘美な時は他にない。
 「―――…いけませんよ、眠っては。まだお腹一杯ではないでしょう?」遥かな高みからゆっくりと揺らぎ落ちると共に、意識さえ手放しそうになる宗矩を抱き留めたフォーティンブラスは、心細げな眦にくちづけ、眠りに落ちそうな身体を優しく揺さ振った。「もっと沢山食べなければ、お外に行かせてあげませんよ?」
 顎を摘んだ指に窓の外に視線を振らされた宗矩は、そこに見慣れた自分の庭を見て、“お外”が指す場所が元々の彼の居場所であることを否応なく思い知らされた。“もっと沢山”―――― 要するに、この変わり者の神様が満足するまで相手をしなければ、蒼鬼の元へ帰してもらえない・・・・
 「みぃ・・・・」宗矩は柔らかな三角耳を哀しげに寝かせ、諦めたように小さく鳴いた。

 半ば猫と化した身体には致命的な媚薬による酔いとそれに増幅された激しい絶頂に責め苛まれた宗矩は、執拗な求めからようやく解放されても自力で現実に立ち戻ることが出来ず、散々に自分を蹂躙した男の膝に突っ伏して頼りなげな視線を彷徨わせていた。朦朧として、警戒心というものを完全に失ってしまった宗矩の髪を撫でていたフォーティンブラスが、そのあまりの無防備さに本気で困惑の笑みを浮かべる。何とも艶かしく、そして堪らなく愛らしい。先だっては折角掛けた変化の呪を恋敵に利用されたことに腹を立て、マトモに眼を向けていなかったのだが、こうして間近にすると、蒼鬼のあの狼狽ぶりにいささかの同情さえ感じた。
 「困った人ですね、貴方は・・・・」
 「みー…」うなじを掻かれた宗矩が身を震わせ、哀しげな甘え声でつぶやいた。
 「・・・・煽らないでいただけませんか」弱々しい声に含まれた艶と切なさに胸を衝かれたフォーティンブラスは、たちまち勢いを取り戻してしまった己の有様に、憶えたての子供ではあるまいしと呆れ果てた苦笑を吐き出した。




Lycanthropeの炬様より猫な宗矩、そして紳宗の素敵な素敵な作品をいただきました…!
“猫じゃらし”を拝読して以来、密かに紳宗バージョンもとてもとても楽しみにさせていただいておりましたので今回このように素敵な作品を頂けました事、凄まじく嬉しいです…!!
マタタビを使って巧みに責める紳士も、可愛く、艶やかな宗矩も本当に素敵です…!!
炬様、有難うございました…!!



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