「・・・・秀康?」ふと目覚めた宗矩は、寝付くまでは確かに傍らにあった温もりが跡形もなく失せていることに気づいて飛び起きた。薄明かりに眼が慣れてみれば、共枕の相手が傍にいないばかりか、自分自身、まるで見覚えのない場所にいることに気づく。「秀康!?」
広い寝床は白いシーツと白い帳に覆われ、紗の帳を通して灯りの落ちた洋風の部屋が見渡せた。慌てて帳を払い除けて寝床を出ると、火の気のない室内を照らしているのが大窓から差し込む満月の光であることがわかる。窓の外は見渡すばかりの花の海で、いくら眼を凝らしても山並みは見えない。日ノ本の国には有り得ない景色だ。薄ら寒く感じる理由は、隙間なく肌を覆って見える割に、薄い布地で仕立てられて体温を守れない洋装のせいだった。
「…ンだよ、これ・・・・!」
大窓を開け放つと、蒼い月に照らされた花園は果てが見えず、薄蒼く輝いて見える白い花が地平までも埋め尽くしていた。周囲を警戒しつつ、薄紙で造られたかのような花の只中に出てみても、何の物音も聞こえない。視界を埋め尽くす花は微かな風にあえかな花びらを揺らしているというのに、風の音さえ聞こえない。温もりの欠片も感じられない静寂の世界に立ち尽くした宗矩は、自分は死んだのではないかという恐るべき可能性に背筋が凍りつくのを感じた。
「花の中の花一輪・・・・名言ですね。時に貴方たち人間は、限られた命であるが故の鮮烈な光芒を放つ言葉を生み出す」
愕然と立ち尽くしていた宗矩は、狙い澄ましたかのように死角から飛んで来た声に眦を吊り上げて振り返った。儚いほど優しげな白、だが、どこか恐ろしいまでの強靭さを感じさせる冷酷な白に包まれた人影が慕わしげに微笑んでいる。
「うるせェんだよ、クソ野郎。何ほざいてんだかまるで意味不明だ」優美な口説き文句を一撃の下に叩き落し、宗矩は慣れぬ洋装への途惑いを懸命に押し隠しながらフォーティンブラスに向き直った。「口ばかりでも創造神を名乗る御方が、色ボケでトチ狂って俺なんかを拉致監禁とはね・・・・こいつァびっくりだぜ。神様でも溜まンのかよ?」
「お誘いの仕方が少々乱暴だったことはお詫びします。しかし、帰さないとは言っていませんよ」フォーティンブラスは悠々と微笑んだ。「もし、ここに鎖して2度と想い人の元へは帰さないなどと言えば、貴方は私にその身を差し出して無様に永らえるより、想い人のために誇りと貞節を守って命を絶つ方を選ぶでしょう・・・・哀しいですがね」
「わかってんならさっさと帰せ」
「無論、お帰ししますよ。貴方が私のささやかな望みを叶えてくださるならば、すぐにでも」
「望みだと・・・・?」
「仮初で結構…が、ひと時、私のものになっていただきたい」フォーティンブラスは警戒心を剥き出しにしてこちらを睨んでいる宗矩の腰を実にさりげない仕草で抱き寄せた。深紅と漆黒、二色の宝玉を嵌め込んだかのような魅惑的なオッドアイを覗き込み、神の身の上でありながら、それを奪い取る力のみ持たない自分の不甲斐無さに苦笑する。「それが済めば、貴方の愛しい人の元へきちんとお帰し致します」
「誰がテメエなんかと・・・・!」
「おや? では、ここに住み着かれますか? それとも、すべてを拒んで自害なさいますか?」
別に帰さないとは言っていないのに、また短気なことだとのほほんと笑い飛ばすフォーティンブラスを睨みつつ、宗矩は内心で派手に歯噛みした。抗えば本当に帰さない心算だろう。それなら自害するという脅しも、先を読まれているのでは効果がない。それにここで自害したところで、神の身であるフォーティンブラスが本当に堪えるとは思い難かった。最悪、死を選んだことによって帰れるはずの蒼鬼の元に永遠に帰れず、生きていないながら死んでもいないためにここから動けないということにもなりかねない。
「サイッテーなヤローだな、テメエ」
「申し訳ありません。しかし、貴方を求める想いが強過ぎて、到底手段など選んでいられないのです」劫火の激しさを込めて睨みつけて来る瞳を惚れ惚れと眺め、フォーティンブラスは屈辱に震える頬を愛しげに掌で包んだ。「お返事をいただけませんか・・・・?」
「―――…一晩相手すりゃ本当に帰すのかよ」
「ここでは夜は明けません…が、そうですね。貴方が私の想いを満たしてくだされば、すぐにお帰ししますよ」
想いを満たす ―――― そんな漠然とした条件があるものかと思ったが、結局のところ、宗矩にフォーティンブラスの言に抗う術はない。あくまでも彼が自発的に身を任せる体裁を取らせようとする底意地の悪い創造神の術中から逃れる手立ては、どこにもなかった。
「勝手にしな」宗矩は文字通り吐き捨てるように告げた。「可哀想だから一遍くらい抱かせてやるさ。だけど、それで好いてもらえるなんて勘違いするんじゃねェぜ、クソ野郎が!」
過分なほどの挑発を含んだ言葉に動じることもなく、フォーティンブラスは不安に強張る頬に甘く唇をすり寄せ、陽光さえ凍りつかせそうな笑みに口の端を吊り上げた。
嫌がる宗矩をようやく手に入れた花嫁のように抱き上げて寝室に連れ戻したフォーティンブラスは、警戒に竦む身体をアーム・チェアに下ろし、まるで貴婦人の前に膝を折る騎士のような仕草で不機嫌な視線の前に頭を垂れて跪いた。一応、スリッパも靴も用意してあったのだが、慌てていて眼に入らなかったのか、何も履かずに庭に飛び出した足を押し戴くように掬い取り、そうと意識さえせずに実体化させた湯を張った洗面器にそっと浸けさせる。
「ンだよ・・・・テメエでやるから放せよ・・・・!」丁寧に土を落とす白い手の優しさが逆に怖くて、宗矩は居心地悪そうに身を捩った。だが、踝を捕らえた手は鋼鉄の万力のように冷たく強く、せいぜい椅子の上でもぞもぞと腰を動かす程度のことしか出来ない。
「じっとしていなさい」
フォーティンブラスは丁寧に洗った右足から水気を拭い取り、床についた膝の上に湯の温もりを残す踵を置かせた。あからさまに不機嫌な宗矩に動かないようにと念を押し、放り出された左足を捕らえて同じく丁寧に土を落とす。舞を嗜むせいか、意外にすらりと形の整った爪先をしげしげと眺めたフォーティンブラスは、緊張に震える小さな指先にくちづけを落とした後、ようやく夜気に晒された素足を絹の靴下と真新しい黒い靴で包んでやり、床に下ろすことを許した。
「おや? どうかしましたか?」居心地悪げにイライラと指を噛んでいる宗矩を見て、ほとんど銀に近いほど淡い色合いの碧眼が悪戯っぽく微笑んだ。
「何でもねえ・・・・!」傅かれることに慣れていない宗矩は、まるで壊れ物を扱うかのようなフォーティンブラスの態度に心底居た堪れなくなった。正直なところ、そんな風に扱われるのは怖い。その奥に秘められた熱情を目の当たりにしてしまう気がする。「犯りてェんだろうが! さっさと抱け!」
「そんなに私が怖いですか?」
してやったりとばかりの笑みでそう問われ、宗矩は、膝のあたりにある白面に危うく本気の蹴りを食らわせそうになった。怖くなどない。薄気味悪いだけだと反論したものの、フォーティンブラスの笑みは揺るがない。
「俺はさっさと帰りてェんだよ! やることやって、とっとと解放しやがれ!」
「お茶でも飲みましょうか。貴方が好みそうな銘柄を用意してあります」
「人の話を・・・・」
「私を満たしていだける約束ですが?」
にこやかに、だが、有無を言わせぬ冷酷な響きを持つ声に反論を封じられ、宗矩は渋々黙り込んだ。不機嫌極まりない表情で行儀悪く脚を組み、上質な織物に包まれたクッションに肘を叩き込むように頬杖をつく。
茶を入れるとは言っても、フォーティンブラスは特に何をすると言うのでもなかった。彼にとっては、欲しいものを手に入れるための努力などということは別世界の話なのだろう。それが欲しいと思えばその意志だけで、すべてを創り出せるのだから。
「・・・・そんな風に、俺の人形でも創ってりゃ良いだろうが」テーブルに置かれたティ・カップと洋風の菓子を盛った皿を胡乱な眼で眺めつつ、宗矩が言い捨てる。
「御尤もではあるのですがね・・・・しかし、私が欲しいのは貴方であって、貴方のレプリカではないものですから」フォーティンブラスは自分に呆れたかのように苦笑し、宗矩の傍らに席を取った。疑わしげな宗矩の警戒心を解こうとするかのように、焼きたてのスコーンを無造作に取って蜂蜜を掛け、口に運ぶ。「どうぞ。美味しいですよ?」
一服盛られる心配をしているのか、宗矩はなかなか手を伸ばそうとはしなかったが、緊張のために食欲はなくとも喉は渇いたのだろう。白い磁器が赤面しそうなほど睨みつけた後、恐る恐るカップを手に取る。「・・・・な…っ、何だよ、これっ!?」
「紅茶ですが・・・・嗚呼」フォーティンブラスは引き攣る宗矩を驚いたように眺めた後、ふと思い当たって頷いた。「貴方たちには、発酵させた茶葉を使う習慣がないのでしたね。驚かせて申し訳ない」
のんびりと、どこかしら、縁側で日向ぼっこをしながら古女房と世間話でもするかのような長閑さで紅茶について語るフォーティンブラスに何を言っても無駄と諦めたか、宗矩は実に不機嫌で不服そうな表情でカップに口をつけた。味については気に入ったとも気に入らないとも言わなかったが、早々に飲み干してしまったカップをソーサーに戻し、つまらなさそうに爪先を揺らしている様子を見れば内心は一目瞭然だ。
「お代わりをどうぞ。スコーンも美味しいですよ?」フォーティンブラスはティ・ポットから宗矩のカップに紅茶を注いでやり、さり気無い口調で勧めた。
「要らねえ」纏いつく視線が疎ましくて、到底何か食べるという心境ではない宗矩が憮然と応じる。「物食ってる暇にさっさと済ませろ」
「少しは愛でさせてください」フォーティンブラスは臆面もなく言い放ち、少々鋭過ぎる視線を和らげるかのように、湯気の上がるカップを目線のすぐ下に持ち上げた。「その装いも、この部屋も・・・・貴方をお迎えするために創ったのですから」
「長く生き過ぎてボケてんのかよ!」黒一色の洋装も、巧妙に金色の輝きを織り交ぜた白い部屋の調度も、実に手の掛かったものであることはわかる。だが、こんな手間隙を掛けて飾るならば、自分などよりも相応しい人間は山ほどいるはずだ。「畜生・・・・! くそったれが・・・・っ」
いっそ、帳の向こうに上品に覆い隠された洋風の褥に自ら身を投げて挑発してやろうかと思うのだが、眠っている間に着せつけられた洋装の扱いがまるでわからず、裸身を晒すことさえ出来ない。主導権を得る術を片っ端から取り上げられて観賞される恥辱に甘んじているしかない宗矩は口惜しくて堪らず、知らぬ間にキリキリと歯を軋らせていた。
「歯が傷みますよ?」悠長に告げたフォーティンブラスは、飛んで来た視線の凄まじさに苦笑を浮かべた。折角綺麗な顔立ちをしているのに、と思う。刃のような悪意や敵愾心が似合わないわけではないが、それらはあまりに見慣れたもので、厭きたわけではないが、今、特別に見たいものでもない。「望み通りに抱いて差し上げれば、私にもあの黒き鬼に対するのと同じ顔を見せていただけますか?」
「自惚れんな、強姦魔」いつの間にやら真正面に立っている白い人影の手に髪を梳かれ、宗矩が忌々しげに言い捨てた。
「今度は咬みつかないでいただけると嬉しい」
屈辱に震える唇を味わうように這い回る舌の感触がおぞましくて、宗矩は固く眼を閉じ、手を乗せた肘掛けの張り布に強く爪を食い込ませた。抗えばここに鎖されかねない。どうせ逃れられない陵辱をどんな手酷いものにされるかわからない。そう思って必死に自分を宥めるが、それでも堪らなく嫌で、大きな手が愛しむように肩を包んだ時には、恐怖と嫌悪に身震いさえした。「う・・・・!」
無意識の内に背後を塞ぐ背もたれに身体を押しつけ、ないも同然の距離を何とかして保とうとする宗矩の様子に苦笑し、フォーティンブラスは往生際の悪い身体を強引に抱き竦めた。それでもなお、拒絶の意志を衰えさせずに身を硬くする宗矩が堪らなく愛しくなり、竦む身体を抱き上げる。
「・・・・この装いならば、本当に白が映える」純白のシーツの海に投げ出された身体を惚れ惚れと眺め、フォーティンブラスがつぶやいた。シャツの胸元を開けば、如何にも東洋人らしい肌理の細かい肌が露わになり、燃え立つような紅い瞳にその身を包む黒、その存在を際立たせる白がよく映えて、まるで一枚の絵画のようだ。
「じろじろ見てんじゃねえっ! 薄気味悪ィッ!」
「美しいものを観賞していたいという気持ちは誰にでもあるものですよ」殊勝さに欠ける籠の鳥に寛容な表情で微笑んだフォーティンブラスは、テーブルからガラス製のハニー・ジャーを取り、透き通った蜂蜜をやはり透明なディッパーに掬い取った。「貴方はもう少し、自分というものを知った方が良い」
投げ遣りに横たわる身体の上にディッパーが翳され、浅い呼吸に震える胸に金色の蜜が滴った。冷たく硬い蜜が体温を含んで柔らかく流れる感触に嫌悪の呻きを上げた宗矩の怯えの混ざった表情に気を良くしたフォーティンブラスが震える肌に何か描くかのようにディッパーを動かし、ストイックに鍛え上げられた身体がたちまち蜜にまみれてぬらりと光る。体温も心も持たない蟲がのろのろと素肌を這うような感触に顔を顰める宗矩の様子が面白いのか、ディッパーに残った蜜を絡め取った白い指が肌蹴られたスラックスの前に遠慮なく押し入り、慄く黒い茂みに、屈辱に震える肌に、陵辱を恐れる秘所へ到る道筋に、淫靡な手つきで隈なく蜜をまぶし始めた。
「こ、の・・・・っ、変態…ッ」
「しかし貴方も楽しんでおられるようだ」勃ち上がり始めたものを蜜にべたつく掌に包み、ひくひくと震える先端を狙ってディッパーを傾けてやると、最も敏感な先端の窪みを細い流れに刺激された宗矩が辛そうにのた打つ。蜜にまみれた肌が熱を増し、甘い香りが一層強く立ち込めた。
慣れぬ洋装に纏いつかれて動きの侭ならぬ身体を疎ましげに捩り、宗矩は悲痛とも言える表情できつく唇を噛んだ。肩を落とされたシャツは意外に丈夫で、薄く汗を浮かべた腕をしっかりと捕らえてしまい、どうやっても抜け出せない。惨めに拡げさせられた脚を包むスラックスもその点では同じで、袴と違って余裕のない穿き口が脚に纏いつき素早い動きを完全に封じ込めていた。
「う、く・・・・っ」スラックスの中で蠢く手に蜂蜜を塗り込められる肌が火照り、堪らなく甘い焦燥感が噴き上げる。痒い、などという穏やかなものではない。熱と痒みが綯い交ぜになった、腰が浮き上がるような焦燥感が背筋に、頭の芯に淫靡に舌を絡めて舐りつき、噛み締めた唇が耐え切れず解ける。「ア…ッ、あぁ・・・・!」
「痒いですか?」フォーティンブラスは再度たっぷりとディッパーに蜜を掬い、焦れったげに震える宗矩から下半身の着衣をすべて取り上げた。屈辱に引き攣りながらも、どこか安堵した様子の宗矩に嫌な笑みを向け、蜜にまみれたガラスのディッパーを色を増した秘所に一気に突き込む。痛々しい悲鳴が上がったが、フォーティンブラスの涼しげな笑みは微動だにしなかった。「痛くさせてしまいましたか・・・・申し訳ない」
「ア…ッ、や、め・・・・ぁ…!」もう完全に形を変えてしまったものを、放つべき精を溜めて熱く震える双珠を丁寧に舐め拭われつつ、痛みに引き攣る秘所に蜜を塗り込まれる感覚に、宗矩は堪らず甘い吐息を洩らし、耐え難い苦痛に眉根を寄せた。蜜に撫でられた場所が堪らなくむず痒くなり、否定しようのない快楽に頭の芯が疼いて視界が情欲の熱に潤み始める。「ちっくしょ…っ、だ、誰が・・・・こんなことで・・・・! あぁっ!」
耳を覆いたくなるような淫らな音を立てて、秘所に突き立てられたディッパーが激しく抽挿される。その動きに合わせて、蜜に絡みつかれ、痒みを訴える茂みを熱い舌に撫で舐られて、堪らない切迫感に我知らず浮いた腰が淫靡に舞った。ディッパーに刻まれた蜜を掬い取るための溝が充血した襞を柔らかく噛んでは往なし、堪らなく甘美な衝撃に立て続けに視界に閃光が溢れる。
「はぁ…っ、はぁっ、あ・・・・」ようやく容赦のない責め立てが止み、宗矩は、頂点を極めさせてもらえない焦れったさと、醜態を逃れられた安心感の間で惑いつつも、必死になって呼吸を貪った。息をつく暇もなく次々とこちらの弱点を暴き立てる手管に抗いようもなく情欲を煮え立たされ、口惜しくて、苦しくて、堪らない。「う、あぅ…ッ」
意に副わぬ快楽を拒む術もなく、屈辱に震え上がる身体が反転させられ、宗矩は眼を瞠った。既に碌に力の入らなくなった四肢でふらつく身体を懸命に支える四つん這いの姿勢だけでも屈辱的だが、挙げ句、入れ替わって枕に背を預けたフォーティンブラスの眼前に秘所を突き出しているとなっては、いっそこの場で自刃したいほどの恥辱だ。
「どうしました? 貴方の好むやり方でしょう」
「ざけん、な…ッ!」
「何度も申し上げますが、私は到って真面目ですよ」
到底真面目そうには聞こえない、笑みを含んだ言葉に続いて、秘所から突き出したガラス棒が舐めしゃぶられる。間接的なくせにひどく淫靡な刺激に苛まれた秘所が固く締まると、カチリ…という極小さな響きに続いて、すっかり温まったガラスが緩々と内襞を掻き混ぜ始めた。白い両手は隙あらば逃れようとする宗矩の腰を捕らえて慄く肌に蜜を塗り込めているのだから、秘所を犯す動きが手によるものでないことは確かだ。
「あぅ・・・・!」遠く、近く、薄い肌を撫でる息遣いから口に咥えたディッパーを抽挿されているのだと気づいて、宗矩は血が滲むほどきつく唇を噛んだ。フォーティンブラスがそんな嬲り方をして来る理由は嫌と言うほどわかっていたが、それが嫌だとかどうとか言う前に、非常に基本的な問題が目の前に横たわっていた。「ちっく、しょ・・・・! しゃぶって、やるから・・・・っ、これ・・・・!」
「ああ、失礼」逃げ場がないことは十分に理解しているはずなのにと、宗矩の強情さをいささか訝しんでいたフォーティンブラスは納得したように応じ、スラックスのベルトを外し、ファスナーを下ろした。既に十分な勢いを溜めたものを鼻先に突きつけられた宗矩が低く呻いて顔を背ける気配があったが、すぐに諦めたような吐息が続き、張り詰めた先端に柔らかな舌の感触が触れる。嫌悪からか緊張からか、深々とガラスのディッパーを突き立てられた秘所がきゅうと締まり、愛らしく震えた。
「ン…ッ、ん、む・・・・んぅ…っ」嫌だと泣き叫ぶ心を怒りで捻じ伏せ、宗矩は、鼻先に突きつけられた熱い劣情の塊に唇を許し、自暴自棄な激しさで激しい脈動を煽り立てた。いつまでもこんな状態に置かれるのは真っ平だ。「ん…っ、ん・・・・!」
情愛の篭らない、機械的とも言える愛撫に零れた苦笑が薄い肌を撫で、ディッパーの握りまで飲み込まされて痙攣する秘所を往なすように熱い舌が蠢く。その強烈な感触に、宗矩は視線の届かない背後で行われている陵辱を否応なく思い知らされた。またしてもガラスの握りを歯で捕らえる音が響き、蜜にまみれ、快楽を求めて煮え滾る内襞が硬いガラスの表面に穿たれた溝に掻き廻される。
「口がお留守ですよ」あまりの屈辱に身が竦んだか、唇に受け入れたものの存在をまるで忘れてしまったかのように硬直した宗矩に、フォーティンブラスは涼しい顔で言ってのけた。恐らく既に見境など失っているであろう身体に深くディッパーを咥えさせ、紅色に染まった秘所から涼やかなガラスの柱が突き出す淫靡な眺めを、透明なガラス越しに見える艶かしい内襞の慄きを、じっくりと吟味する。「誇り高い貴方のことだ。あの黒き鬼にさえ、このような痴態を許したことはないのでしょうね」
別種の生き物のように淫靡な舌がとんでもない場所から突き出したガラスの先端を舐め揺さ振っては深く押し込み、焦れったい快楽に喘ぐ秘所が懸命にそれを押し出すのを待っては、また深く押し込む。もう、そこをしとどに濡らすものが何なのかもわからないという有様に、宗矩はあまりの恥辱と容赦のない快感に失神寸前に追い込まれた。朦朧とし始めた意識に咥えさせられたままの怒張から響く鼓動が染み渡り、ただひたすらに、この状況から逃れたい一心で屈辱に震える舌を動かす。
「う…ぐ・・・・っ! んうぅっ!」やがて、生々しい振動と共に生温い吐精が口内に溢れた。好きでもない男に奉仕するだけでも精一杯なのに、そんなものを受け入れられるはずもなく、ショックに痙攣した腕が力を戻して身体を跳ね上げ、宗矩は這うようにフォーティンブラスから逃れてベッドの片隅に蹲った。激しい咳が喉を塞ぎ、無理矢理流し込まれたおぞましい味に強烈な吐き気が込み上げる。「あぐ…っ、う・・・・ごほっ!」
「ひどい方だ」フォーティンブラスは我侭な恋人に手を焼く愉しみを満喫しているかのような寛容さでつぶやき、身体を起こした。苦しげな宗矩の背をさすってやり、咳が治まるのを待って上気した顔を無理矢理上げさせる。
人間の分際で、神の身である自分の執着心を堪らなく掻き立てる男の紅い唇を、黒い髭を、白く汚す吐精の雫を見て、フォーティンブラスはひどく楽しげな、そして、ひどく執念深い笑みを口元に刷いた。気丈にも催促と威嚇の視線を向けて来る宗矩の中から蜜にまみれたディッパーを抜き取ってやり、淫らに濡れて輝く先端で髭を伝う白濁を掬い取る。
「ぁう・・・・っ」今し方まで慄く内襞の狭間に深く埋められ、蜂の集めた蜜と、その蜜に誘われて滴った宗矩自身の蜜にまみれたガラスで唇を割られて、宗矩はそのおぞましさと屈辱に、一瞬、本気で気を失った。だが闇に堕ちる寸前、ねたつくガラスを唇を犯すかのように抽挿され、無理矢理意識を繋ぎ止められてしまう。到底飲み下せない唾液が唇から溢れ、それなりの手入れを施して整えている髭から粘りついた白濁を洗い流すように滴り落ちた。
「如何ですか? これが、私やあの黒き鬼を魅了して止まない、貴方という蜜の味ですよ」愕然とする宗矩の口腔をたっぷりと犯した後、フォーティンブラスはどこか揶揄の響きを込めた口調でそう告げた。苦しげな宗矩の唇を解放してやり、蜜を拭われた代わりに唾液を滴らせるディッパーを見せつけるように舐る。
「下衆野郎・・・・ッ」矜持も何も纏めて踏み躙られ、穢されてしまったかのような屈辱感に、宗矩は紅い右眼を焔のように燃え立たせて吐き捨てた。
「褒め言葉と賜りましょう」フォーティンブラスは堪えた様子もなく微笑み、もう半身を起こしているだけでもやっとであろう身体をとんと突いた。案の定、手応えなく倒れ込んだ身体に覆い被さり、情欲と羞恥に艶めかしく上気した肌に舌を這わせる。嫌悪に震えながらも熱を増す肌が引き裂いてやりたいほどに愛しい。
「う、ぁ…っ」トロトロになった秘所を口惜しいほど冷静な指先に貫かれ、宗矩は痛みと快楽が綯い交ぜになった衝撃に哀しげに喘いだ。嫌だ、嫌だと泣き叫ぶ心を無視して、散々掻き回され、蜜を絡めて巧みに解きほぐされた内襞はもう歯止めの利かない熱と痒みに蝕まれ、一刻も早く逞しい脈動を咥え込まなければ狂ってしまうと喚き立てる。指の届く範囲など高が知れている。そんな浅い場所ではなく、痛いほどに疼く最奥を滅茶苦茶に責められたいと、慎みの欠片もない叫びに身体が揺さ振られた。「はぁっ、う・・・・! 畜生ッ、ち…っ、く…しょ・・・・!」
浅い部分に折り重なる襞を執拗に捲り返していた指が急に凶暴な動きで痙攣する秘所を突き上げ始めた。浅い部分しか責められないとは言え、抽挿の度に硬い指先を疼きの源に捻じ込まれ、悲痛な声を上げた宗矩の腰が絶頂を求めてガクガクと震える。散々焦らされた急所を責め苛まれる痛痒いような快楽は蜜に嬲られて燃え上がるようなむず痒さに苛まれている肌の苦痛を煽り立て、快楽という言葉が生易しく聞こえるような強烈な衝撃に、身体はたちまち追い詰められた。あと一歩、ほんの一歩で楽になれるという場所に留め置かれて責め苛まれた後に蜜にまみれた腹をもどかしげに叩いていたものの裏筋をきつく吸われて、宗矩はそれ以上耐える術なく煮え滾った情欲をぶちまけた。
「・・・・愛らしい」上気した肌を金色の蜜と白い劣情にまみれさせ、あまりの恥辱に朦朧としている宗矩を嬲るように眺め、フォーティンブラスがつぶやく。「本当に、困ったものだ・・・・」
「ん・・・・?」脱力した身体をうつ伏せられて正気づいた宗矩は、諦め切った様子で眼を伏せ、されるがままに膝を開いて犬の姿勢で這い蹲った。未だ整わぬ呼吸に波打つ背にどこか無機質な印象の身体が覆い被さり、最早抗う振りさえ出来ぬ秘所にグロテスクなほど逞しく隆起したものが押し当てられる。「う・・・・!」
殊更ゆっくりと、まるでその感覚を宗矩の身体に刻み込もうとするかのように、熱く膨らんだ矛先が微細に震える内襞の狭間にじりじりと埋め込まれて行った。じんとした温かな痺れに似た快感が腹の底から湧き起こって腰を包み、背筋を舐め上げ、苦悶に寄せられていた宗矩の眉が更にきつく顰められる。いっそ堕ちてしまえば楽なのだろうが、こちらの理性を奪う寸前の線を綱渡りするかのような責め方に阻まれ、意識を手放すことは出来なかった。気絶されては面白くないというフォーティンブラスの内心があからさまに見えるやり口に従わざるを得ない口惜しさに、きつく閉じ合わされた睫に涙が滲む。
好きにすれば良い。抗わせぬと言うならば、抗いはしない。だが、明け渡すのはあくまで身体だけだ。いくら責められ、情欲の焔に焼き蕩かされたとしても、それは器だけのこと。心は ―――― 唯ひとりの人のものであるこの想いは、如何に相手が神の身であろうと絶対に渡さない。
「本当に頑なな人ですね、貴方は」痛いほどの締めつけが快楽や恐怖からではなく、“異物排除”が目的の嫌悪感からのものであることを嫌と言うほど感じさせられ、フォーティンブラスが苦笑する。「いったいどうすれば、貴方の心から彼の人の面影を消し去れるのでしょうか?」
「ン…ッ、んぁ・・・・!」抗う身体を力尽くで貫き通され、その生々しい屈辱と痛みに宗矩は堪らず悲鳴を上げた。ビクついた身体が覆い被さって来た温もりの中に抱き竦められ、最奥の窄まりが熱い矛先にねっとりと捏ね回される。何とも言えず焦れったい、それでいて甘い焦燥感が腹の底から湧き出し、熱を増す身体の芯を意地悪く舐った。「い、嫌だ・・・・!」
思わず前に逃げようと足掻いた腕が捕らえられ、凄まじい力で背後に引きつけられる。自分の身体さえ支えられない状態に追い込まれた宗矩は、捕らえられた腕と最奥を貫いた灼熱の杭に半ば吊るし上げられるような姿勢で固定され、苦しげに呻いた。
「あまり酷い真似をさせないでください」フォーティンブラスは心底困惑したような、非の打ち所のない紳士的な態度で告げた。「愛しい貴方が苦しむ様など見たくはないのですよ? たとえ、その苦悶がどれほど妖艶であろうと」
無理な姿勢に撓る背に甘やかすようなくちづけが落とされ、軋む腕がそっとシーツの上に横たえられた。抗えば痛い目に遭わされる。だが、好いてもいない男の腕に抗うことさえせずに身を任せる屈辱は、他の何事にも勝る痛みだった。いくら手管を尽くして肌を熔かされても、見境を失くすほどに責められても、それでも、やはり気づいてしまう。本当に欲しいものは、今、咥えさせられているものとは違うのだと。
だが、だからこそ、抗えない。一刻も早く解放してもらうために、抗うわけには行かない。
「…ッ、ア、ァ…ッ、く・・・・っ」迷いと混乱のために動くに動けない身体を情欲のままに振り回され、宗矩は苦しげに眉根を寄せて低く喘いだ。蜜が齎す痒みに屈して疼き、触れてくれと叫ぶ肌が疎ましい。突き上げられるままに詰まり、乱れる呼吸が呪わしい。それらを忌避する理性を残したまま獲物を生殺しにするフォーティンブラスへの嫌悪は留まるところを知らず、快楽に酔い痴れる身体と、その身体を厭う心の溝を生木を引き裂くように拡げて行った。「ひ、ぅ・・・・っ、ちっくしょう・・・・! こ、この…ッ、ヘタクソ野郎が・・・・!」
「傷つきますね」明らかに快楽に嵌り込みつつあるくせに、憎まれ口でそれを誤魔化そうとしている宗矩の必死さをやんわりと窘め、フォーティンブラスは、荒い呼吸に震える引き締まった腹を掌で舐めるように撫で下ろした。蜜に焼かれて火照る肌を煽るようにくすぐり、耐え難い痒みに苛まれていじらしく震える茂みを掻き解してやると、言い訳の利かない勢いで熱を孕んだものが焦れったげに蜜まみれの下腹部を叩く。熱く疼くものを蜜を掬った掌に包んで愛しげに擦り上げてやると、堪らなく哀しげで艶めいた悲鳴が零れ落ち、深く咥えさせたものが甘やかに食い締められた。「諦めなさい・・・・私を受け入れない限り、逃れる術はありません」
「ンなトコ、まで…っ、突っ込みやがって、何・・・・!」
「足りませんね・・・・貴方の心にはまるで届かない」
「あ・・・・!」男に慣れているとは言い難い身体を伴天連の質量にぐいぐいと押し開かれ、宗矩は泣きたい想いで身を捩った。熱っぽく熟した内襞を押し潰すように抽挿される熱が気持ち良くて堪らない。嫌なのに、巧みな手管に抗いようもなく熱を煽られ、拒み切れない快楽に苦痛の表情が蕩かされて行く。「い、痛ェ・・・・っ、い…っ、て・・・・! ひぅっ! あ、あぁ・・・・っ」
「痛いですか? それは失礼」
「あうっ!」絡みついた腕に身体を引き上げられ、怒張したものの上に深く腰を下ろす体位を要求された宗矩が哀しげに首を振る。嫌で嫌で…本当に、気が狂いそうなほど嫌なのに・・・・「は…っ、放せ・・・・! 嫌だ、いや・・・・っ」
一杯まで拡げられ、感じたくもない快楽を強いられて痙攣する秘所を無慈悲な指先が更に押し広げ、くたくたに蕩けてしまった内襞を強引に掻き開く。硬い指先を柔らかにうねる内襞の奥に秘められた快楽の源に揉み込まれ、宗矩は悲鳴を上げる余裕もないほど鋭い快楽にのた打ち廻った。切迫した呼吸に震える胸の頂で硬くしこった突起を空いた手の指先に摘み取られ、くりくりと転がされて、切なげに空を掻いていた爪先がぴんと張り詰める。だが、達けない。何ら戒めを受けているわけでもないのに、腹に蟠る煮え滾った情欲をどうしても解放出来ない。
「どうしました? こんな時に何をすべきか、まさか貴方ともあろう人が知らないわけではないでしょう」
「…っけんな、ボケェッ! 誰が…っ、テメエに・・・・!」怒鳴りつけた途端、実に甘い仕草で上気したうなじを舐り上げられ、宗矩は頭蓋に閃光を捻じ込まれるような快感に息を飲んだ。再度絶頂を求めて波打った身体を抱き竦められ、慄く肌に更に蜜を垂らされ、撫でさすられて、呼吸さえ侭ならない。「や、やめ…っ、やめろォ・・・・ッ」
「本当に繊細な身体だ・・・・そろそろ認めていただけませんか? 心地良いのでしょう?」
「う…る、せ・・・・っ、テ、メエなんぞに・・・・っ、抱かれて、感じるワケがあるか・・・・!」
「そう」ここまで追い詰められてなお、減らず口しか叩かない唇を肩越しに奪い取り、フォーティンブラスは実に楽しげに告げた。「その強がりがまた良い」
膝裏に廻った手が、決して華奢な部類には入らない身体を軽々と浮かせた。不安定な浮遊感に途惑う暇もなく、抜き取られる寸前まで引いた矛先が一気に最奥に叩き込まれ、そうかと思うと、その圧迫感に喘ぐ隙さえなく、またしてもぎりぎりまで引き抜かれる。途方もない怪力を拠り所にした無茶な責め立てに、宗矩は堪らず悲鳴を上げ、ダダを捏ねる子供のような仕草で何度も頭を振った。
「嫌だ、いや…っ、いや、ぁ…いや・・・・や…っ、嫌、だ…ァ・・・・ッ!」
「ほう・・・・そんなに楽しんでもらえるとは光栄ですね」喘ぎをすべて拒絶の言葉に摩り替える宗矩の有様に、蒼い眼が執念深い笑みに細められた。嫉妬混じりの腹立ちも手伝い、一杯に張り詰めた先端をうねる内襞の一点にこすりつけるように抽挿してやると、余裕も体面もまるでない、艶やかな叫びが情欲の熱に満たされた大気を斬る。「生憎、今日は先日のように中途半端な真似で終わらせる心算はありません。貴方の心を得るには至らなくとも・・・・貴方の心を引き裂く程度のことは、私にも可能なようだ」
「う・・・・」最奥に押しつけられた矛先が大きく跳ねた。次いで、吐き気を催すほどおぞましい、生温い奔流が引き攣る内襞を撫でる。タダでも狭い場所を伴天連の質量に一杯に満たされているせいで、奔流は行き場を失い、うねりの奥へ、微細な襞一枚一枚の合間にまで流れ込み、絡みついた。「い、嫌だ…ッ、助け・・・・!」
汚されてしまう、否、汚されてしまった・・・・もがく身体を抱き竦められ、溢れ出す劣情を余さず流し込まれながら、宗矩は心ならずも想い人を裏切ってしまった苦しみにのた打ち廻った。慰めるようにうなじにすり寄せられる唇の温かさにも気づく余裕なく、耐え難い屈辱と哀しみに低く嗚咽を洩らす。
「おや・・・・これは迂闊だった」蜜にまみれて火照った身体を抱え込むように顔を伏せ、こちらの胸が苦しくなるような静けさですすり泣く宗矩の様子に、フォーティンブラスは長閑に微笑んだ。「これでは貴方の顔が見えませんね・・・・折角、貴方を抱いた者にしか見ることを許されない顔をしてくださっているのに」
「ひぅ…っ!?」無情なほど力強い腕に身体を反転させられ、淫らに股を開いた姿勢で組み敷かれた宗矩は血相を変えたが、いくら抗っても、まるで空気か水を相手に格闘しているかのように手応えが無い。深々と突き立てられたままのものは恐ろしいほどの熱さと存在感を伝えて来るのに、手に触れる身体は、まるで衣服を纏った霧のようだ。「い、嫌だ・・・・! もう抜け…ッ、も、嫌だぁっ!」
「この程度で私を満たせたと思われては困りますね・・・・お断りします」顔を隠そうとする手を捕らえて無理矢理絡めた指を握り締め、フォーティンブラスは喘ぐ宗矩を実に楽しげに眺めた。「御自分でどう思っておられるかは存じませんが・・・・まったく素晴らしいですよ、貴方は。あのような子供には勿体無い・・・・このような宝玉は、私の腕に抱かれ、磨かれてこそ価値がある」
繰り返される抽挿に意識が霞む。感じたくない、これ以上蒼鬼を裏切りたくないと絶叫する心を無理矢理引き裂いて食い込む快楽がつらくて、なのに、その倒錯した混乱に堪らないほど疼く身体が口惜しくて、気が狂いそうだ、本当に。
「ひで、や…す、ぅ・・・・っ」思わず零れた名が己の耳に届くか届かないかのうちに、重い痛みが頬を打った。何の容赦もない平手打ちに頬に纏いついていた髪先が吹き飛ばされ、上気した肌が真っ赤に染まる。
「失礼」愕然とした視線に、フォーティンブラスは穏やかに微笑んだ。既にはっきりと手形が浮き出しつつある頬にくちづけ、彼を具現化するために愚かしい下々が口にするのとは違う、彼自身の真名をささやく。「…私の名です。呼んでくださいますね?」
もう、否と言うだけの気力はなかった。それ自体が暴力と呼べる陵辱の最中に明らかな暴力を受けたことで完全に心が挫け、怖れに満たされて、もうどうやっても抗えない。
「そう・・・・とても素敵だ」酔うほどに甘く、心を砕かれそうなほど哀しげな声でつぶやかれた名に、フォーティンブラスは満足した様子で頷いた。
「楽しかったですよ」余程つらかったのか、呆然と宙を見詰めて転がったまま身動きもしない宗矩を宥めるように抱き締め、フォーティンブラスがささやく。「本当なら、このまま攫ってしまいたいところですが・・・・」
弱い呼吸に震える唇が呆れるほど優しいくちづけに封じられ、絶望と狂気の表情を浮かべた瞳が力尽きたかのように落ちた瞼に覆い隠された。意識を喪失した無表情は、しかし、先程までの正気を喪失し掛けた無表情に比べれば遥かにマシだ。
人の子ひとり、随意に出来ないわけはない。宗矩が如何に強靭な意志を持っていようとも、本当は、フォーティンブラスがそうしたいと望むのであれば、身も心も縛り上げ、思うが侭にすることなど容易いことなのだ。何の手間も掛からない。ただ、宗矩が無用心に名乗っている彼の真名を呼ぶだけで良い。それだけで、宗矩の存在のすべてはフォーティンブラスの傍らに永久に縛られることだろう。だが、絶対的な力に捻じ伏せられたがために心が毀れ、最早泣くことも笑うこともしなくなった人形など手にしたところで何の意味があるだろう。
「忘れさせて差し上げましょう、今宵の逢瀬のすべてを・・・・それが、貴方に対する私の愛の証です」フォーティンブラスは脱力した指に気障な仕草でくちづけ、整った白面に蛇を思わせる執拗な笑みを浮かべた。「愛ゆえに…私は一度、貴方を解放しますが・・・・決して諦めはしませんよ。もうしばらくの間、貴方は貴方の思うが侭、好きなだけ世界という名の広大な牢獄の中を逃げ惑えば良い。いずれ貴方が己の非力さを悟り、絶望して、私の前に屈する時・・・・貴方のすべては私のものとなるのだから」
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宗矩の洋装、そして白と黒。凄まじく綺麗で格好よくて見惚れます…!
綺麗なだけでない大人の雰囲気が堪らなく好きです…!
炬様、いつもながら素晴らしいお話を見せてくださって本当に有難うございました…!