凍月の宴

 久しぶりの独り寝の床で微睡んでいた宗矩は、灯りの落ちた室内に不意に沸き起こった違和感にはたと眼を開けた。あまりにも前触れなく覆い被さった白い影に起き上がろうとした身体をやんわりと押さえられ、碧眼は碧眼でも、愛しい緑がちな青ではなく、氷のように透き通った水色の瞳が薄明かりの中で微笑む。雪原を描いた紙を紅を乗せた剃刀で引き切ったように見える人間味のない唇が、宗矩にはわからぬ異国の言葉をつぶやいた。
 「…明けましておめでとう、といった意味ですよ。一月一日ですからね」目覚めたばかりのどこか茫洋とした柔らかさをかなぐり捨て、激しい威嚇と警戒を剥き出しにする深紅の瞳に少々傷ついた面持ちを浮かべ、フォーティンブラスが言う。
 「何しに来やがった、変態創造神」宗矩は不機嫌も極みに言い捨てた。「連れ合いの留守狙って忍んで来る間男なんざ身に覚えがねェってんだよ」
 「新年早々、情け容赦がないですね、貴方という方は・・・・」
 「うるせえ! 退けっ!」
 「お断りします」肩を突き放そうとした宗矩の手を捕らえて捻じ伏せ、フォーティンブラスは実に涼しい表情で告げた。「貴方を奪いに参りました。ですから、放すわけには行きません」
 「ざけンな…ッ」
 「ふざけてなどいませんよ」渾身の力が込められた両手を片手で一纏めに押え込み、フォーティンブラスは、いささか寝乱れた着物の胸元に慈しむように掌を這わせた。「新しい年の幕開けに貴方の傍を離れるとは・・・・ほとほと無粋な方ですね、貴方の想い人は」
 「放せっつってんだろうがっ!」
 「そう嫌わないでください・・・・貴方のためと思えばこそ、貴方の大切な人が不注意に定めた今夜の宿を飲み込まんとする雪崩を留めているのですから」
 「・・・・何だと?」
 「雪崩ですよ。この時期、下総の山道は油断なりませんからね」フォーティンブラスは事情を悟って引き攣った頬を掌に包み、驚愕に見開かれた紅い瞳を惚れ惚れと見詰めた。「しかし、そうなれば貴方はひどく嘆くでしょう・・・・場合によっては、それを私の仕業と決めつけて今よりも更に頑なになってしまいかねない。故に、助けては差し上げますがね・・・・しかし私は、今年は貴方に無償奉仕はしないことにしたのですよ」
 「は…っ、俺のカラダであいつの命を買い上げろってか」宗矩は、あくまで上品な態度を崩さない狼藉者に侮蔑の笑みで応酬した。幾重にも言葉を包んだ言い草は穏やかではあったが、要求そのものには上品さの欠片もない。「それが神様の言い草かよ」
 「―――…彼の命を奪おうと思うならば、容易いのですよ、本当に」フォーティンブラスは特に怒る様子もなく、ただ宗矩を抱き寄せ、掻き口説いた。「これほど貴方が愛しくなければ、すぐさまそうしていることでしょう・・・・しかし、彼を喪った貴方がどれほど嘆くかと思うと、とてもではないですが・・・・とは言え、あまり手厳しく拒まれると、可愛さ余って憎さ百倍…などという気分になるかも知れないですね」
 「ざけんな!」宗矩は拘束じみた抱擁を逃れようと身を捩った。「神様名乗ってトチ狂ってんじゃねェッ!」
 「ええ、狂っていることは我ながら理解しています。ですが、仕方ないのですよ」フォーティンブラスは、自嘲やら嘲笑やらわからない、何とも複雑な笑みに唇を歪めた。「全能でありながら、唯一・・・・愛しい貴方を我が物にする力だけを持たない私には・・・・狂気に身を堕とすより他に己を護る術がない」
 「んぅ・・・・!」まさしく狂気に堕ちた者の凶暴さで噛みつくように反論を封じたくちづけに、宗矩は本気で怖くなった。触れてしまえばもう我慢など出来ないとばかりに絡みつく腕が、魂まで貪るようなくちづけが、はぐらかせない真剣さを感じさせる仕草のすべてが怖い。「うぅ・・・・っ」
 「いっそ」尚も逃れようとする往生際の悪い身体に体重を掛けて褥に組み伏せ、フォーティンブラスはふと、寒気がするほど優しい笑みを浮かべて告げた。「貴方から何もかも奪い取って、哀しみに狂わせてしまえば、私の想いは報われるのでしょうか? 彼だけでなく、手足も、視界も、物音も・・・・世界のすべてを奪い去って私だけが残れば、貴方は私の想いに報いてくださいますか?」
 どうすることも出来ないままに組み敷かれた宗矩の唇から、声とも呼べない微かな喘ぎが零れた。実に穏やかに狂い逝く神に抗ったところで、その狂気を加速させる以外の何の役にも立たないだろう。宗矩は、当然とばかりに重ねられる唇に柳眉を顰めたが、それ以上の抵抗は出来ず、求められるがままに口を開いて舌を絡め、好いてもいない男の蹂躙に身を任せた。恐怖と嫌悪に熱を失った肌を守る着物の襟が掻き広げられ、作り物のように形の整った白い手が繰り返し肌を撫でさする。いじらしいほど必死に擦り合わされている腿を、雪のように白く冷たい衣装に包まれた膝が易々と割った。
 「諦めて楽しみなさい。早く解放されたいのでしょう?」
 誰が楽しめるかと呻き、宗矩はただひたすらに執拗な愛撫をやり過ごす構えに入った。そもそも、彼は抱かれる側に廻ることがあまり好きではない。その上、想ってもいない男の腕に抱かれているのでは、到底 ――――
 「う・・・・」だが本当に、心と身体は別物だった。夜気と嫌悪に冷えた肌を弄る温かな手は巧みな上に情熱的で、どう頑張っても、触れられた場所から湧き起こる痺れるような情動を抑え込めない。いや、抑えようとすればするほど、熱い疼きは増して行く。「はぅ・・・・」
 「本当に、貞淑な人だ、貴方は」フォーティンブラスは戦慄く腹にそっとくちづけ、苦笑半分につぶやいた。「では、こう言えば貴方が私の腕に身を堕とす言い訳になりますか? 素直に楽しまないならば、彼を異界の奈落に沈める…と」
 宗矩はきつく唇を噛み、舐るような視線から激しい仕草で顔を背けた。勝手にすれば良いと言わんばかりの態度の中に、微かにほっとしたような気配があるのは、別にフォーティンブラスの気のせいではあるまい。
 肌を撫でる指先が、無遠慮かつ繊細に這い回る唇が、狂おしくて堪らない。嫌なのに、好きでもない男に触れられる嫌悪も確かに感じているのに、触れられた肌は慄くと同時に甘く震え、愛撫の手が離れれば、安堵すると同時に焦れったげに疼く。求めてなどいない。絶対に。なのに・・・・
 「は、あぁ・・・・っ」ついと脇腹を撫で上げた指に誘われた切ない快感に、宗矩は堪らず、甘ったるい吐息を洩らした。乱れた呼吸に撓る胸を行き来した唇が寂しげに震える淡色の突起を探り育て、乳を求める赤子のように吸い上げる。「く、ぁ…っ、ち、くっしょ・・・・!」
 嫌、なのに ――――
 いい加減、独り寝の退屈さが身に沁みて来たところをあまりにも的確に責められて、理性がいくら否定したところで、行き届いた愛撫を心底拒む術は、宗矩にはなかった。節操のない身体への失望感に浮かんだ涙に重くなった睫を瞬かせ、何とも切なげな表情で視線を彷徨わせているのが精一杯だ。
 「我慢は必要ないでしょう。彼にわかるはずもない」日頃、上辺だけを見ている限りでは信じられない貞淑さで喘ぎを堪える身体がゆっくりと、しかし確実に堕ち行く様を見せつけるかのように愛撫を与えつつ、フォーティンブラスが告げる。「貴方が私に屈したからと言って、彼に苦情を言う資格もない・・・・違いますか? 日頃の彼の抱擁が行き届かないばかりに、貴方の身体は私に抗えないのだから」
 「う・・・・!」言い返そうとした唇を甘く咎めるようなくちづけに封じられ、潤み始めていた秘所に長い指を含まされて、宗矩はここにはいない人の面影に詫びるかのように哀しげな表情を浮かべて固く眼を閉じた。最後の理性で抗う内襞が優しく掻き解され、冷えた慄きが何とも形容し難い熱とむず痒さに変わって行く。熱に炙られ、潤みを増した襞の一枚一枚に蟲が這っているかのような焦れったい違和感が沸き起こり、堪らず腰が揺れる。「うぅ・・・・っ、はぁ…っ、あ、んぅ…!」
 息苦しさに堪らず顔を背けてもすぐに捕らえられて、宗矩は充血した内襞が抗う力を失うまで、楽しげな笑みを浮かべたフォーティンブラスの唇に貪られ、翻弄され続けた。己の感じているものが快楽であるのかどうかさえわからなくなるほど切羽詰まったところでようやく解放されたものの、最早指一本動かせず、情けないほど蕩け切った内襞を掻き回されて震え上がる様を無遠慮に観賞される。
 「そろそろ指では足りないでしょう」
 指先に伝わる感触が粘りつくような柔らかさを備えるまで散々に弄んだ後、フォーティンブラスは突然、未練の欠片もない仕草で身を引いた。昇り詰めさせようという心算のまるでない愛撫に翻弄された宗矩が苦しげに呻く声を聞きつけ、何もない空中から何物かを取り出す仕草を見せる。どうしようもない焦りに染まった眦がその手に現れたものを認めて裂けんばかりに見開かれる様を小気味良さげに眺め、フォーティンブラスは、その手の中でのた打つものの矛先を悲鳴を上げ掛けた唇に押しつけた。
 「うぐ、ぅ・・・・っ」不気味に蠢く張り型に無理矢理唇を割られ、宗矩はおぞましさに遠退きそうになる意識を必死に繋ぎ止めた。ここで気絶などしたら、機嫌を損ねたフォーティンブラスが抵抗の術のない蒼鬼にどんな八つ当たりを向けるかわからない。「ン…ッ、ン・・・・! う、ぅ…ん・・・・!」
 「そう怯えることはありません。タダのカラクリですよ」フォーティンブラスは、まるで意思あるもののようにのた打つ張り型でゆっくりと宗矩の口腔を犯しながら告げた。「この時代にはないものですが、これくらいでなければ貴方には相応しからぬと思ったのでね」
 「う、う・・・・!」抵抗の術もなく膝を割られて秘所を探られ、挙げ句、紛い物の怒張に喉を突き上げられるという醜態に、野獣の如き奔放さを湛えた瞳が口惜しさに潤んだ。心の奥底で必死に想い人を呼び求める弱さを怒りで抑え込み、耐えに耐えるが、繰り返される抽挿と肌を嬲る視線に責め立てられ続けるうち、堪らず涙が零れる。懸命に堰き止めていた感情が溢れ出し、呼ぶことの出来ぬ想い人の名が崩壊寸前の意識を詰るように染み渡った。「う・・・・」
 「あまり無理強いしては嫌われてしまいますね」失神寸前の宗矩の哀れな有様に、氷片のような碧眼に微かな慈悲が灯った。
 「ぅ、ん・・・・っ」呼吸を塞いでいた紛い物の怒張からようやく解放され、宗矩は朦朧と息を喘がせた。自覚するのも厭わしい被虐の快感に潤みを増してしまった秘所を、温もりこそあれ、やたらと無機質な印象のある指が掻き開く。「…ぁ、いや・・・・」
 「御心配なく。きっと気に入っていただけるはずですよ」
 「ア・・・・ッ」異生物の如き生々しい動きでのた打ち、震える矛先が秘所に押し当てられ、宗矩は絶望的な表情で眼を閉じた。生々しく膨らんだ先端が、己の唾液の助けを借りてずるりと身体の中にのたくり込む。「ひ…っ、う、ぅ・・・・!」
 嫌だと、おぞましいと叫ぶ理性も、堪らないむず痒さと物足りなさに疼く内襞を抉るように責めてくれる逞しさにはそれ以上意地を張り通せなかった。抽挿の度、内襞の間を無数の蟲が這うかのような不快感が引き剥がされ、心地良い熱さが身の内に浸透する。苦痛と怒りに吊り上がっていた眦が甘く染まるまで、あっという間だった。
 「はぁ…っ、アァ…っ、ん・・・・! あぅ・・・・っ」おぞましくうねり蠢くカラクリが抽挿されると、拒みようのない熱は一層奥深くに染み渡って行き、掻き解された端から、狂おしい疼きは奥へ奥へと侵食して行った。堪らない、あまりにも心地良くて、本当に ――――「よ、よせ・・・・っ、狂っちまう・・・・!」
 「狂っていただきたいからこそ、やっていることですよ」それでも、最も刺激を待ち侘びているであろう最奥までは決して責めてやらず、フォーティンブラスがささやく。「そうやって心の内でこの私に侮蔑を投げ続ける貴方を抱かせていただいた程度では、恋敵の命を救う代価としては安過ぎる」
 「あ・・・・!」カラクリの動きが大胆さを増し、宗矩はどうすることも出来ずにそれをきつく食い締め、歯噛みした。もう少し、ほんのもう少しだけ深く挿れてもらえれば、すべてが終わるのに・・・・「あぅ・・・・っ」
 「ここから先は御自分でどうぞ。良い見物を見せていただけたならば、彼を危険極まりない山小屋から一瞬で救い出して差し上げますよ」
 「くぁ…ッ」びりびりと震える矛先が引き上げられ、内襞の向こう側で震え上がっているものをちょうど抉り込む位置で止まる。付け根部分を握っていたフォーティンブラスの手が離れてしまうと、禍々しい芋虫のようにのた打ち回る幹が褥を叩き、とろとろになった内襞を手酷く突き回した。「ヒイィッ!」
 「抜いてはいけませんよ」恥や外聞をどうこう言うだけの余地をなくして脚を開き、その間で蠢く張り型を必死の想いで捕らえた宗矩の手を押さえ、フォーティンブラスが命じる。「抜けば、即座に彼を殺します」
 「ひ…っ、人でなし・・・・っ」
 「ふふ…貴方からそう言っていただけるとは光栄ですね」フォーティンブラスは宗矩の手ごとカラクリの柄を握り、淫水にまみれてのた打つ紛い物の怒張を緩々と出し入れした。「さあ・・・・ここだけでは物足りないでしょう。どうしても私を拒み、彼を選ぶと言うならば、その覚悟の程を見せていただきましょう」
 屈辱に咽び泣きながらも、突っぱねようのない脅迫と拒み難い快楽に四方八方から責め立てられて、宗矩は泣く泣くカラクリの握りを掴み直した。秘所が裂かれてしまうのではないかと思うほど激しくのた打ち回る張り型を操作して己を追い詰めつつ、しゃくり上げる呼吸に痙攣する胸に空いた片手を這わせ、緊張してはいるものの、まだ硬さは得ていない突起を指の腹で嬲り育てる。こんな状況で感じられるわけがないと思うのに、事前に与えられた攻め処を心得た愛撫の巧みさに誘われた熱は根強く、むしろ心が拒めば拒むだけ、身体は背徳的な情欲に燃え盛った。
 「ア…ッ、アァッ!」硬く起立した胸の突起を弄くりながら意思あるもののように蠢く張り型を秘所に突き立てているうち、宗矩の意識や矜持を甘ったるい霧が覆い始めた。逃げられないのだと、今は唯、この快楽に身を任せてしまうしかないのだという諦めが折れぬ矜持を慈悲深く眠らせ、身体の芯をしつこく炙る快楽の焔で理性を包み込んでくれる。腹の奥を突き上げる度に吹き上げる快感が胸に、喉に溢れ、いつしか宗矩は夢中になって己の身体を責め立て、慰めていた。「はぅ…っ、あぁ、う・・・・っ、ひ、ぁ…っ、ん・・・・!」
 「綺麗ですよ」快楽の中にあえかな苦痛を溶け込ませた表情の美しさに、フォーティンブラスはまさしく宝石でも観賞するかのような笑みを浮かべた。「彼のためならばそこまでするのかと思うと、少し妬けるのも事実ですがね・・・・」
 滅茶苦茶に最奥を突くうちに、引き攣った爪先が褥に突き立ち、我が手に陵辱される腰が浮き上がって行く。宗矩は、自分がどんな有様をフォーティンブラスに饗しているのかまったくわからないまま、高々と掲げた恥部を紛い物の怒張で突き上げ、断末魔の叫びに身を震わせた。「イ、イク…ッ、も、駄目だ・・・・っ、達くうぅっ!」
 紅色に上気した肌が己の劣情に白く汚されて行く生温い汚辱感の中、宗矩は自分でも気づかないまま、心が壊れてしまいそうに哀しげな声で愛しい人の名をつぶやいていた。

 「・・・・大丈夫ですか?」
 気遣いの欠片もない労わりの言葉に、無残な絶頂からようやく立ち直り掛けていた宗矩は残された意地と気力を総動員して、見た目はひどく穏やかな碧眼を睨み据えた。手首に引っ掛かった袖と何とか解けずにいた帯だけに支えられた寝巻きは滅茶苦茶に乱され、上気した肌ばかりか、陵辱の痕跡も生々しい漆黒の翳りさえ隠してはいないのだが、そんな姿でもなお、その色違いの瞳に込められた迫力は、神たる者さえ圧倒した。
 「本当に、愛しい人だ、貴方は」屈辱に身を震わせる宗矩の視線の苛烈さに一瞬息を飲んでしまったフォーティンブラスは、ほっとため息をついた後、恍惚とつぶやいた。不審と嫌悪を露わにする華のように紅い瞳に微笑み、先程から衣服の拘束を嫌って痛いほどに疼いているものを夜気に晒す。「では、次はこれを。貴方の中に」
 宗矩は、熱い鼓動に隆起し、恐ろしいまでの逞しさを見せつけるものを愕然と見遣り、哀しげに項垂れた。相手が人間であったなら、たとえ誰であろうとこんな真似はさせて置かない。たとえ幻魔であろうとも。だが、神を敵に廻してこの窮地を逃れる手立てはどこにも見つからなかった。
 「どうしました? さあ」
 楽しげな催促に歯噛みしたものの、どうにも出来なくて、宗矩はおずおずとフォーティンブラスの膝に上がり、硬くいきり立ったものを後ろ手に捕らえた。強いられた快楽に蕩かされながらも、悲鳴を上げ続ける理性に途惑ったように痙攣する秘所を必死に往なしつつ、熱い矛先を最奥へと導く。
 「ヒ…ッ、ぃ、うぅ・・・・!」ひくひくと物欲しげに痙攣する場所に熱い脈動を感じた途端、宗矩の身体を絶頂にも似た衝撃が突っ走った。思わず竦み上がり、凍りついた姿勢をうっとりとした視線が舐り上げ、次いで、明らかに情欲に熱を増した掌が震える肌をするりと撫でる。
 途端、がくりと身体の力が抜けて崩折れた宗矩には、必死に押し留めていた熱に自ら最奥を捧げる結果が待ち受けていた。
 「ひあぁっ!」心ならずも熱い杭に一息で最奥まで許してしまった宗矩は、その衝撃と噴き上げる快楽に怯え、目の前にある確かな存在に無我夢中で縋りついた。それがどれほど危険なことであるかも考えることが出来ない有様で、ほとんど銀に近い金髪を指先で掻き乱し、上質なサテンに包まれた背を切なげに引っ掻く。それでも苦しさは遠退かなくて、宗矩はフォーティンブラスの肩に泣き縋った。「か、勘弁、してくれ・・・・も、無理・・・・!」
 「本当に、貴方という人は・・・・」哀しげに震える身体を腕の中に抱き包み、フォーティンブラスは彼らしからぬ狼狽の表情で嘆息した。「この私をどこまで狂わせれば気が済むと言うのですか・・・・」
 「ア…ッ、あ・・・・いや・・・・!」深く繋がった腰を緩々と揺さ振られ、宗矩は弾かれたように顔を起こし、つい今し方まで縋りついていた肩を突き飛ばした。だが、腰を捕らえられているのではそれ以上逃げられない。まるで力の入らない身体を好き勝手に振り回され、腹の底で煮え立つ熱とむず痒さを煽り立てられる。「う、ぁ…っ、アァ…ッ!」
 肩を突き放そうとすれば背に廻った手に押さえられ、腰を引こうとすれば軽く曲げられた膝に退路を塞がれる。狼狽える肌に繰り返し与えられるくちづけが狂おしくて、逃れようともがけばもがくだけ深みに嵌って行くかのような責めに引き裂かれる宗矩には、自由に息をつくことさえ許されなかった。
 「は、ぁ…っ、んぁ・・・・っ」そんな及び腰ではいつまで経っても放してやれない…などと、いつもならば自分が蒼鬼に向かって告げるような意地の悪い言葉に催促され、宗矩は羞恥に焼き切れそうな意識を必死に支え、嫌々ながらフォーティンブラスに媚びて腰を振った。「…っ、くしょ・・・・っ、いい加減、達け、や・・・・くそったれが・・・・っ」
 「今の言葉で随分と冷めましたが」
 「あ・・・・」硬くしこった乳首をぺろりと舐め上げられ、宗矩はその衝撃の激しさに息を飲んだ。思わず逃げを打った背中を一見優しげだが、その実、冷酷なほど的確な強さで抑えられ、じんじんと痺れる小さな突起を唇に挟み込まれ、執拗に舐り捏ねられる。「う、あぁ・・・・っ」
 熱く昂ぶったものを包み込んだ内襞がその暴挙を叱るようにひくひくと痙攣し、まるでそこを柔らかく抓るかのような絶妙の食い締めを発揮した。負け惜しみの止まない口とは裏腹の何とも淫靡な反応に、フォーティンブラスの笑みから余裕が消えて行く。
 「あぅっ」腰を、腿を、捕らえた手に強く身体を手繰り寄せられ、最奥を突き破る勢いで深く貫かれた宗矩は苦しさに喘いだ。逃げたい、だが、目前に迫った絶頂も極めたい・・・・そんな葛藤が胸の内で逆巻き、元々身動きの侭ならない身体から更に抵抗の力を奪い取る。「あ、あぁ・・・・っ」
 「・・・・お望みのものですよ」鮮やかな紅に染まった身体を悩ましく踊らせ、しゃくり上げる宗矩をきつく抱き寄せ、フォーティンブラスがささやいた。「すべて・・・・貴方に捧げましょう」
 「あ、ふ・・・・っ、あああっ!」どくり、どくりと重々しい衝撃が腹の底で弾け、迷いに揺れる宗矩の意識を無理矢理絶頂へと押し流して行く。生温かい奔流に最奥を満たされる衝撃に、宗矩は我を忘れて泣き叫んだ。「い…っ、いやあぁっ! 助け…っ、嫌だ嫌だ嫌だあァッ!」
 高みに昇り詰めながらも深く身体を溶け合わせた男を拒み、泣いて身を捩る宗矩の頑なさに、フォーティンブラスの口元が激しい嫉妬が理由の冷笑に引き攣る。白い手が熱を孕んで宙を舞う黒髪を鷲掴みにして、拒絶の言葉を貪り喰らうようなくちづけが封じ込めた。
 一杯に吐精を含まされた最奥を熱い矛先にトドメとばかりに掻き回され、宗矩は絶望の嗚咽を洩らしながらも、なす術なく快楽の頂点へと昇り詰めてしまった。
 「―――…満足…とまでは言いませんが、良い見物ではありましたね」ゆっくりと高みから転び落ちて来る身体を抱き竦め、フォーティンブラスがささやいた。「では、私も約束を果たしましょう・・・・その方が、貴方も気が楽になって、もう少し私に打ち解けてくださるかも知れない」
 「…っ、は、ぁ・・・・はぁ…っ、ア…? ひぅっ!?」僅かな手加減さえなく最奥に叩きつけられた吐精に苦しんでいた宗矩は、急に膝を掬われ、深まった繋がりに悲鳴を上げた。そのまま事も無げに立ち上がったフォーティンブラスに抱え上げられ、力の入らぬ膝と溶け合ったままの部分に体重が集中する。「嫌だあぁっ! 抜け…っ、もう抜いてくれえぇっ!」
 「おやおや、駄目ですよ、そんなに大声を出しては」フォーティンブラスは、泣きじゃくる宗矩を抱えたまま隣室との境の襖に近づいた。怯えてしがみつく宗矩の腕の甘やかさを思う存分楽しみつつ、閉め切られていた襖を細く開けて目顔でその向こうを示す。
 「秀、康・・・・」目に立たないように軽装ではあるが、要はちゃんと押さえた武装を纏い、大太刀を抱えた蒼鬼が囲炉裏端で静かに寝息を立てている様を眼にして、宗矩は安堵と恐怖、歓喜と羞恥が複雑に入り混じった表情でため息のようにつぶやいた。
 「約束は守りましたよ。これでもう、彼に危険は及びません。まあ、寝相が悪くて熾き火で火傷をしたとしても、あそこに寝かせたからだと私を責められては困りますが」
 「あ・・・・!」思わず隣室に身を乗り出し掛けていた宗矩は、眼前でぱしりと閉められた襖に哀しげに瞳を揺らせた。傍に行きたい。少しだけでも、傍に ――――「秀康ぅ・・・・」
 「静かに・・・・今、彼が起きては貴方が困るでしょう」フォーティンブラスは震え上がっている宗矩を壁際に寄せ、深く混ざり合った場所を緩やかに突き上げた。「貴方があまりに可愛らしい顔をなさるもので・・・・私は恋情と嫉妬に狂いそうなのですよ。これをいささかなりとも鎮めていただかなければ、恋敵の救済などという重労働には割が合わない」
 「い、ぁ・・・・っ、ひ、秀康…ッ、ひで、や・・・・」
 「情事の最中に他の男の名を口にするものではありませんよ」優しげな咎めと共に敏感な部分を抉り返すような抽挿に責め上げられ、宗矩はまたもや容赦のない絶頂感に苛まれ、口惜しげに唇を噛んだ。

 「まったく無粋ですね、貴方という人は」
 「黙れっ!」
 今にも爆笑しかねないほど強く笑いの気配を纏った声に激怒に歪んだ怒声が応じ、大剣の刃が振り上げられる響きが伝わった。何かに当たっていれば、そのものが例え鉄であったとしても一刀両断してしまいそうなほど殺気の篭った斬撃は、しかし、何物にも行き当たる様子なく大気を斬る。快楽と羞恥の極みで泥濘のような眠りに意識を沈めていた宗矩は、吹きつける物騒な気配にぼんやりと眼を開け、周囲を見回した。
 寝所は温かく静かで、間近に感じた怒声は目覚めてみれば存外遠い。恐らく庭からだ。何が起こっているのかと、ひどく怠い身体を引き摺り起こした宗矩は、次の瞬間、真っ青になった。

 「折角眠りの呪を掛けて差し上げたというのに、何故わざわざ起き出すのですか。理解に苦しみます」フォーティンブラスは喉笛に喰らいつかんばかりの殺気と凄まじいばかりの斬撃を易々と弾き飛ばし、実に楽しげにくすくすと笑った。「それとも・・・・見逃したくなかったとでも? まあ、それはわからないでもありません。あのように美しい艶姿は、長い時を生きて来た私と言えども・・・・」
 「うおぉっ!」
 吼えるような気合いと共に叩き込まれた斬撃が白面に微かな風を叩きつけ、フォーティンブラスがにやりと笑った。位相をずらしていると言うのに追い縋って来るとは何たる技量。それとも、不可能を可能にするほどに怒りが激しいと言うことか。
 「ほら・・・・貴方があまり大声を出すものだから、起きてしまったではありませんか。疲れているところを可哀想に」
 呆れ半分に笑ったフォーティンブラスの喉元で、背後から突き出された刃の切っ先が鋭い音を立てて交差した。襤褸切れのような有様で昏倒していたはずの宗矩が研ぎ澄まされた刃のような気配を纏い、肩越しに振り返った碧眼をキッと睨み据える。
 「この場に残れば、貴方は苦しむだけでしょうに。彼に貴方を許す寛容さがあるとは思えませんが?」
 「はっ、テメエの閨に下るくらいなら、秀康に捨てられて嘆く方が百倍もマシだ、強姦魔」
 「妬けますね」本当は捨てられる心配など欠片もしていないであろう、脅しを鼻で笑った声にフォーティンブラスがため息をつく。「私では、貴方を毀すことさえ出来ない…と仰るのですか」
 やけに実体感が豊かではあるが、所詮は幻。フォーティンブラスの身体は、本来ならば身じろぎも出来ないであろう隙のなさで周囲を固めた刃が陽炎であるかのような気軽さで宗矩を振り返った。即座に間合いを取り直した宗矩の双刀と、思いがけず背後を取る形になった蒼鬼の大太刀の斬撃が続け様に襲い掛かるが、やはり髪の毛一筋揺らがせるでもなく、ついと宗矩に近づき、その顎に指を掛ける。
 「またいずれ。次こそは貴方を奪い取れることを期して、今はこの清いくちづけでお別れします」フォーティンブラスは唇を掠めるだけのくちづけを交わしてそうささやき、怒り心頭で飛んで来た大太刀の斬撃が届く前に姿を消した。
 「くそったれが・・・・!」吐き捨てるように言った途端、視界が大きく揺らぎ、回転した。その場に座り込んでしまいそうな身体をどうにか庵の外壁に凭せ掛け、落ち着くために大きく息をつく。その拍子に最奥にたっぷりと注ぎ込まれた生温い吐精がつと内腿を伝い、宗矩は渇いた自嘲に喉を震わせた。
 「宗矩!」
 「今触んな」大太刀を納めた手が自力で立っていることさえ難しい身体を抱き止めようと近づき、宗矩は泣きたい気分でその温かさから身を躱した。「汚ねェから・・・・」
 「何言ってんだ」拒絶の態度に一瞬、心細げな表情を浮かべた蒼鬼は、宗矩の声に篭った自嘲の響きを感じ取って強い口調で反論した。「立ってもいられないくせに・・・・ほら、意地張ってないでこっちに来い」
 「無理すんな。他のヤローに抱かれてた身体だ。汚ねェだろうが」
 「・・・・誰に抱かれたって、誰を抱いたって、良いんだ、本当は・・・・」蒼鬼は、強がりでも何でもなく、本心からそう思っていた。気にならないとは言わないが、それでも本当に、そんなことは些細なことだった。「心は俺だけのものだろ・・・・?」
 包み込むような抱擁と共に肌に染み込ませるかのようにささやかれた言葉に、宗矩は心底驚いた様子で、きょとんと蒼鬼を振り返った。見れば、フォーティンブラスの瞳よりも遥かに緑がちな碧眼に怒りの類はなく、ただ、何もかもを投げ打って泣き縋りたくなるような優しさだけが宿っている。
 「違うのか・・・・?」
 温かい手が鼓動を包み込むように左胸に乗せられ、情欲の焔に焼かれる時とは違う、優しい快楽が絶望に体温を失い掛けた胸の奥にゆっくりと染み渡る。これも俺のものではないのかと不安げに問われ、宗矩は様々な想いが複雑に混ざり合った居た堪れなさに頬を上気させ、怒鳴りつけた。
 「・・・・ったりめェのこと訊いてんじゃねえっ! テメエのでなきゃ誰のモンだってんだっ!? ボケナスがァッ!」
 「なら、良い」
 大太刀使いの豪腕に足を挫いた姫君のように抱え上げられた宗矩は、男としては見っとも無いも極みの有様に何故か反抗する気にならず、思っていたよりもずっと逞しい肩に涙の伝う頬を押しつけ、眼を閉じた。

 その後、いじらしいまでに真摯な求めを悉く拒んで風呂場に立て篭もった宗矩は、纏いついた情事の痕跡を肌ごと引き剥がそうとするかのような激しさで身体を洗っていたところを見咎められ、問答無用で寝所に引っ立てられた。何も人の入浴を覗くことはないと怒ってはみたものの、おまえは何を仕出かすかわからない、などと年上ぶった口を叩かれ、それに反論する術もなく、憮然と黙り込む。
 「何やってんだよ、こんなに虐めつけて・・・・」綺麗に整えた褥に宗矩を横たえた蒼鬼は、擦り過ぎて紅くなった肌にくちづけ、不安げに震える身体を抱き締めた。「馬鹿だろ、おまえ・・・・」
 「う・・・・」自己嫌悪に冷え切った唇に体温を分け与えてくれるくちづけがあまりにも優しくて、宗矩は苦しげに眉を顰め、固く眼を閉じた。涙よりも哀しい笑みがあるように、冷酷さよりも優しさの方が遥かに痛い時もある。今のように。「秀康・・・・!」
 「黙って」くちづけを逃れて何か言おうとした唇を再度強引に封じ、蒼鬼は掌に包んだ頬を、指先に触れる眦を、繰り返し愛しむように撫でさすった。苦痛に冷え、涙に腫れた肌が堪らなく哀れであると同時に、喩えようもなく愛しい。
 「なァ…酷くしろよ、もっと・・・・」懸命に自制しているが、しかし、内心は嫉妬に煮え立っているであろう蒼鬼を今以上煽って大丈夫か ―― 興奮し過ぎて役立たずになるのではないか ―― という心配はないでもなかったが、あまりにも自分の有様が居た堪れなくて、宗矩は肩口に食らいつく蒼鬼の耳朶を甘咬みするかのようにささやいた。「どうせ誰かに毀されちまうなら、おまえに毀されてえ・・・・」
 「馬鹿言え・・・・」
 「何でだよ?」想い人に酷い真似など出来るかと呻く蒼鬼の一途さに苦笑し、宗矩は、揶揄するような、嘲笑うような歪んだ笑みを浮かべて尚も挑発した。「俺のこと好いてるなら、出来るだろうがよ? お仕置きしてくれよ、秀康・・・・俺、おまえ以外の男に抱かれて、昇り詰めちまったんだぜ・・・・? 一番深いトコまで、他の男の逸物咥え込んで、よ・・・・」
 「…ッ、それ以上言うんじゃねえ・・・・っ」
 「おまえのモンだってのに、他の男に股開いてよ、中にたっぷり・・・・」
 「黙れっ!!」宗矩が自暴自棄になっていることは十分わかっていたが、それでも、こんな風に煽られては堪らない。誰よりも傷ついているのが宗矩であることは否定しないが、だからと言って、蒼鬼が傷ついていないわけではない。「畜生・・・・っ、畜生ォッ!」
 「んぐ…ッ!」己の痴態を囃し立てていた口に手拭いを噛まされて、宗矩はどこか安心したような笑みに目元の険を和らがせた。今にも泣き出しそうな眼で懸命に微笑まれるくらいなら、怒りをぶつけられ、手酷く扱われた方が遥かに良い。頭の後ろで手荒に結ばれた布を解こうとする仕草を見せると、激昂した蒼鬼に両手を捕らえられて引き摺られ、足掻く手首を扱き帯で一纏めにされ、後ろ手に縛り上げられてしまう。「うぅ・・・・」
 厳しく戒められた身体をしどけない崩し正座で蹲らせている宗矩を眺め、蒼鬼は自分でも恐ろしいほどの情欲に固唾を呑んだ。どうしてくれようか…という獰猛な呻きが腹の底で煮え立ち、何とも言い知れぬ甘い嗜虐心に身体が疼く。
 「何で・・・・っ、こんな真似させるんだよ・・・・!」それでも最後の抵抗とばかりに悲鳴を上げる理性を扱いかねて、蒼鬼は呻くように言いながら宗矩を抱き竦めた。捕らえ所のない宗矩の気性をそのまま現わしているかのような黒髪がそっと摺り寄せられ、深紅の瞳が挑発的な笑みに細められる。眼は口ほどに物を言うとは言うが、これは言い過ぎだ。「馬鹿にするな・・・・っ、おまえを骨抜きにするくらい、俺にだって・・・・!」
 「ん・・・・!」少々手荒に褥に突き転がされ、宗矩は相変わらず微細な安堵の表情を浮かべたままで眼を閉じた。毀して欲しい、忘れられなくして欲しい。今なお、他の男に付け入られる余地があるのは、これまで宗矩の方でそこまで激しい交わりを許さなかったということもあるのだが・・・・蒼鬼以外の男の愛撫をこの身体に染み込まされるのは真っ平だと思い知った。
 ひんやりとしたぬめりを纏った張り型に秘所を突かれ、宗矩は苦しげに身をのた打たせた。細身の張り型は油薬のようなものを塗られているようで、然程の痛みは感じさせないが、やはり突然はつらい。
 「我慢しろ・・・・毀されたいんだろ・・・・!」
 「ん、ん・・・・っ」慎ましく閉じた場所を突然割り開かれた衝撃は間も無く収まり、代わって何か冷たい、ねっとりとした感触が内襞に粘りつく違和感が身体を襲う。途惑うように視線を彷徨わせた宗矩は、次いで苦しげに呻いて身体を丸めた。しかし、そんなことでは到底我慢出来ないほどの焦燥感が押し寄せ、か細い悲鳴に喉の奥が引き攣る。身体の中を得体の知れないものが這いずり回っているかのような、ざわざわとしたおぞましい痒み。いったいどこが痒みの源なのかわからなくなるほど強烈な痒みに全身が震え、手の届く範囲すべてに爪を立てて掻きこそぎたい衝動に駆られた。
 芋茎 ―――― 宗矩は絶望と言っても良いような衝撃に揺さ振られ、泣きたい想いで身を捩った。だが、もう遅い。一瞬広がった冷たさに代わって、焼けるような痒みが噴き上げる。
 「う、グ…ッ、んうぅー…っ!」ただでも効き目の強い薬を、未だ熱の冷め切らない内襞に含まされたのでは堪ったものではない。宗矩は引き攣った爪先で繰り返し空を掻き、身動きのままならない身体を必死でのた打たせた。「ん、んぐ・・・・っ、ひぅ、ぅ・・・・っ、くうぅっ! う、んうぅっ!」
 快楽の泥沼でのた打ち回る宗矩を存分に観賞した後、蒼鬼は、たっぷりと芋茎を含ませた張り型を緩々と操作し、充血した秘所を容赦なく追い詰め始めた。激しい痙攣にぴんと張り詰めた身体から、悲惨と言っても良いほど欲にまみれた悲鳴が迸る。それでも容赦はしてやらず、ひくひくと淫らに震える平らな腹に執拗に舌を這わせると、耳に聞こえるだけでなく、肌を通して伝わる宗矩の身体の惨状に、然程強くはないはずの嗜虐心が怖いほど煽られて、蒼鬼は半ば鬼の貌で薄く微笑んだ。
 「ん・・・・! ンゥ…ッ」恥ずかしさのあまり気絶しそうなほど派手な水音を立てて抽挿される張り型になす術もなく翻弄され、宗矩はもう、涙を抑えるだけで精一杯になってしまった。絶頂へと直走る身体は幾度も断末魔の痙攣に震えるのだが、その度、あと一歩のところで手荒に快楽の源を取り上げられ、どうしても頂点に昇れない。「うぅ・・・・! く、うぅ…っ!」
 「宗矩・・・・」戒められた身体を淫らに悶えさせ、涙ながらに情けを乞う想い人の媚態に思わず生唾を飲みながらも、蒼鬼はどうにか自分を抑えた。今にも弾けそうなものを自らの手で咎めるように押さえつけ、火のように熱くなった耳朶にそっと唇をすり寄せる。「“挿れてください”は…? 宗矩・・・・?」
 「う・・・・」
 「言えよ、宗矩・・・・“挿れてください”って」
 「ん、んぅ・・・・!」
 「嗚呼、そうか。しゃべれなかったんだっけ」蒼鬼は相変わらず、何者かに取り憑かれたのではないかという表情で空々しく手を打った。苦しげにしゃくり上げる宗矩の猿轡を解いてやり、とろとろになった秘所を指先でくすぐる。「これで言えるだろ・・・・? 言えよ」
 「く、くだ…っ、さ・・・・」ようやく声の自由を取り戻した宗矩は、もう恥も外聞も意地も忘れ、涙声でつぶやいた。「挿れて…っ、くだ、さい・・・・」
 「秀康さま…は?」
 「ひ…っ、秀、康さま・・・・ぇ…っく・・・・ひぅ…っ」最早要求されている言葉の意味などわかっていないだろうボロボロの有様で、宗矩は懸命にささやかれた言葉を口真似した。「挿れ、て…っ、ひ、でやす…さまァ・・・・ッ」
 堕とした ―――― 戦場でも感じたことのない勝利感が湧き起こり、蒼鬼は、常の彼にはまるで相応しからぬ笑みに口の端を上げた。如何にも支配者然としたそれは、戦で城を落とした時にさえ、これほどはっきりとは浮かばなかったものだ。
 「あぅ・・・・っ」焦れったさのあまり激震に見舞われている身体を己の秘所を覗き込むような姿勢に折り曲げられ、宗矩は辛そうに睫を震わせた。だが、そんな贅沢な痛みに浸っていられたのも束の間、真上から叩き落すような激しさで、限界まで張り詰めた灼熱の杭が蕩け切った内襞を深々と穿つ。「ヒ…ッ、ぎ、ゃああああっ!」
 「く…っ、そ・・・・!」死に物狂いと言っても過言ではないような食い締めに、我慢に我慢を重ねていた蒼鬼は最奥に到達すると同時に弾けてしまった。だが、その腹立ちも手伝って、いきなり最奥に吐精を含まされた宗矩が衝撃から立ち直らないうちに、早くも身体が勢いを取り戻し始める。蒼鬼は、引き攣る身体を扱い易い姿勢にしっかりと押さえつけ、今度はゆっくりと、甘く蠢く内襞の隅々まで味わおうとするかのような執拗さで、快楽にのた打つ宗矩を責め上げ始めた。
 「ア…ッ、アァ…ッ!」余裕なく埋められた場所にたっぷりと注ぎ込まれた吐精が暴れ回る灼熱の杭に追われて、抽挿の度に溢れては紅に上気した顔を艶かしく汚す。だが、無茶な姿勢で最奥を嬲り捏ねられている宗矩に、そんな体裁に割く心の余裕があるはずもなかった。ただ、熱くて、苦しくて、そして堪らなく気持ち良くて、自棄になって自ら望んだことながら、愛しい人の手で奈落の底に突き落とされる恐怖に身体が竦み、その竦みがまたしても堪らぬ甘さを呼び起こす。「そ、んな・・・・そん…っ、なに、すんな…よォ・・・・ッ」
 「どこまで俺を舐めてるんだよ、おまえは・・・・」明らかな後悔に身を震わせている宗矩に、蒼鬼がふと、いつもの彼の表情を取り戻して嘆息する。「俺だって・・・・男だなんだぜ?」
 「はぅっ!」その言葉の意味を理解する暇もなく、一層深く突き入れられた熱に快楽の向こう側に突き抜けてしまいそうな衝撃を食らわされ、宗矩はその夜二度目の失神に意識を預けた。

 際どい部分に奇妙な具合に集中する熱にふと目覚めた宗矩は、激しい責め立てに疲れ切った身体が未だ縛につけられたままであることに気づいた。脱力した身体は不自由な姿勢を窮屈だと感じる余裕さえない有様だが、それでも、下腹部に集中する熱だけは明確に感じ取ることが出来る。それだけ熱の集中が露骨なのだ。
 「ん・・・・?」
 「気がついたのか?」
 平静を取り戻した蒼鬼の声に、重い頭をどうにか擡げた宗矩は、自分の有様とこれから与えられる陵辱を知って愕然とした。
 容赦なく拡げさせられた両足首は愛刀の両端に厳しく括りつけられて固定され、痺れるように怠い腰の下に枕が押し込まれて、漆黒の下生えに包まれた下腹部を突き出す姿勢を強いられていた。そして、その下生えを包み込むように、熱く絞った手拭いが置かれている。
 「うぅっ! ん、んぅっ!」眠っている間に再び猿轡を噛まされた口で必死に拒絶の言葉を紡ぐが、形になるわけもなく、宗矩は、怖いほど冷静な気配に包まれている蒼鬼に向かって懸命に首を振った。「う、う…っ、う・・・・う、んぅ…!」
 「仕置きが欲しいんだろう?」手拭いからの湯気で十分に蒸され、ふわりと盛り上がった茂みを優しく撫でさすりながら、蒼鬼が思い詰めた声で告げる。「毀れるまでして欲しいって、おまえが言ったんだろ・・・・」
 「う、う・・・・っ」
 「じっとしてろ。こんな所に怪我したくないだろ」
 怯えて動きを止めた宗矩の肌に冷たく薄い剃刀の刃が置かれ、じりり…という刺激が走った。もう随分と長くその部分の肌を護って来た覆いが剥ぎ取られ始め、些細なものではあるが、なかった頃を思い出せないほど長く纏っていた覆いを取り上げられた肌が久々に外気に触れて、寒いと悲鳴を上げる。
 「ふ…っ、うぅ・・・・! んぅ…!」矜持も羞恥心も根こそぎ掻き取って行く刺激に身悶えしつつも、宗矩は、身体の奥底からゆらゆらと湧き上がって来るえも言われぬ甘さに途惑ったように瞳を震わせた。焦りも、痛みも、口惜しささえもが喩えようもない甘さに変わり、被虐の悦びが齎す蜜の中に溶け込んで行く。「ん、んん・・・・」
 「誰にも渡さない」摘み取ったばかりの桃の実の如き手触りを確かめるように覆いを失った肌に舌を這わせ、蒼鬼はひどく思い詰めた口調で告げた。「誰に抱かれても、変わらない・・・・おまえは俺のものだ」
 その言葉が少々信じ難いほど強く胸の奥底にまで食い入って来て、宗矩は自分でも訳のわからない痺れに恍惚とした表情で瞳を揺らがせ ―――― やがて、小さく頷いた。



Lycanthropeの炬様より新年の贈り物として素晴らしい紳宗、そして蒼宗のお話を頂きました…!
紳士に蹂躙される姿も、蒼鬼に堕ちる姿も本当に素敵。
艶やかな様に拝読するたび心震わされます。
炬様、有難うございました…!



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